I love you




車から外を眺めると、夕日に浮かぶ月と星。


「月がきれいですね」とキョーコが言うと、蓮は、何も言わなかった。


「ごめんなさい、運転中だとこちら側ですし見えませんね」と言うと、蓮はやはり何も答えなかった。キョーコは、ただ、外を眺めた。


「星も、きれいですね」と付け加えてキョーコはちいさく笑った。


単なる帰宅の合間。

帰る、それ以上に、何も意味は無いのにね、と、キョーコは思うけれど。

いつ、共に帰る事すらできなくなるか分からないから。

だから、ただ、見ている美しさを、時間を、ささやかな思い出を、忘れないように、蓮と共有したかった。


蓮は、「知ってるよ」と、だけ、答えた。

蓮には、月が見えているのだろうか。

横を見たのだろうか。

「運転しながら見えますか?」と、キョーコが聞くと、蓮は、「いいや?」と、答えた。


「本当は、男が言う台詞なんじゃなかったっけ、月が綺麗ですね、は、、、」と蓮が言うと、キョーコは、「そんなルールがあるんですか?」と不思議そうに笑った。


「月が、綺麗ですね。・・・・調べてごらん、有名な言葉だったと思うよ」と、蓮はキョーコに言った。

しばらく携帯をいじった後、キョーコは、赤くなって、そして、何も言えなくなってしまった。

「月が綺麗ですね、最上さん」

蓮が静かにそう言った。

一度でいいから蓮から聞いてみたい台詞。

でもキョーコは「からかわないで下さい、知らなかったんですから」と照れて熱くなって、手で頬をあおいだ。

蓮は「からかってないよ」と答えてから、「他の男に言わないでね?」とにっこり笑って付け加えた。

キョーコは、「言いませんよっ!!」と言って、「でも本当に、月がきれいだって言いたかっただけなんです! これからそういう時はどうしたらいいんですか!!」とぷりぷり怒って付け加えた。


蓮はちいさく笑った。

そしてもう一度、「月が本当に綺麗ですね、最上さん」と言った。

キョーコはからかわれているのだと思って、頬を丸く月のように膨らませた。


蓮は、キョーコの頬にできた丸い月を見て「綺麗な月だね」と言いながら、更に怒るキョーコに面白そうに笑った。







2018.02.04