Crazy Rendezvous

目が覚めてから数十分。

キョーコは寝返りを数十回繰り返して、ついに身体を起こした。

まだ朝の六時前。眠りについてからまだそんなに経っていない。

でもそんなにゆっくりなんて寝ていられなかったんだもの。

起きて、横であれこれと今日の用意をして、それでも疲れているのか、蓮は全然気付かなかった。

「もう、出て行きますよ~・・・・」

「ん・・・・」

キョーコの声に返事をするように寝返りを打ったけれど、それでも気付かなかった。

「敦賀さん、大好きですよ・・・じゃあ」

頬に一つだけ名残を残すと、キョーコは掛けてあった服に腕を通し、すたすたと玄関に向かった。

白猫がキョーコに気付いて、足に絡まる。

毛の優しい感触がして、一度足を止めて抱き上げた。

「御主人様、あとで起こしてあげてね。私もう行かなきゃなの」

「ナァァァ」

「いい仔ね。じゃあまたね」

白猫の鼻の頭にキスをして降ろすとキョーコはにっこり笑って蓮の家を後にした。

*****



「敦賀さん、大好きですよ」

そう耳にして、幸せな夢を見ていたような気がしたのに。

「キョーコちゃん・・・くすぐったい・・・・・。」

ふと目が覚めて横に手をやると柔らかい毛の感触。猫が啼きながら顔を舐めていただけで、家の中のどこにもキョーコはいなかった。

――今日はデートをするのだと、自分から言っていたのに・・・。

「・・・・なんで一人で勝手に帰るかな・・・・」

携帯の向こう側のキョーコに、努めて冷静に話そうと思っても、蓮は不機嫌な声にしかならなかった。

「寝坊するからですよ」

キョーコは蓮の不機嫌には乗らずに、楽しそうに笑って答えた。

「・・・・ひどいじゃないか・・・・起こしてくれたって・・・・」

「猫が、起こしてくれませんでした?」

「おかげ様でね。耳元で煩く啼かれて、顔中舐められた」

「うふふ」

「一体何時に帰ったの・・・」

「六時半過ぎです。」

時計の針は、今八時過ぎを指している。

「で。今どこにいるの?」

「ふふ・・・・サイドボードの上、見てください」

そこには一冊のどピンク色のハート型をした小さなメモ帳。ラブミー部のマークが入っている。めくるとキョーコの字で、「敦賀さんへ」と一枚目に書いてある。

「・・・・・・?何、これ」

「今日の敦賀さんのスケジューリングが書いてあります」

「スケジューリングなんて。せっかく今日は本当に久しぶりの休みなのに・・・」

「だから、私が今日のデートスケジュール立てておきました♪あ、それ後ろから見ないで下さいね。最初から一枚ずつこなしてから来てください。絶対ですよ???今日はだって、デートなんですからっ。敦賀さん我侭聞いて下さるって前、言いました」

「はいはい。了解ですよ、お嬢さん。でも一体これこなしていったら、いつ君に会えるの?」

「んー・・・いつでしょうね。くすくす・・・」

「最後までスケジュールこなしたら、君に会えるんだろ?」

「どうでしょうね・・・ふふ」

「分かったよ。じゃあさっさとやって会いに行くから。最後までやって君に会えなかったら、オレは切れるよ?」

「えーっ!!」

「えー、じゃないよ。さっさとやって会いに行くから。じゃあね」

何か言いたげなキョーコの最後の言葉は聞かずに、さっさと携帯を切った。

ページをめくった一枚目。

『① カーテンと窓を開けて深呼吸』

――な、なんだこれ…。

一枚ずつ番号がふられていて、事細かに指示が書いてあるメモ帳。一体いつこれを書いたのだろう。

次にシャワーを浴びて、その後クローゼットの右から三番目と七番目の服を重ねて着て、左から五番目のパンツを履いて、一番左のコートを手にする。

いつものネックレスと香水をつけて、カバンは持たずにお財布と携帯とキーをポケットに入れる。そうして猫にご飯とミルクをあげてハグしてから、玄関へ。

『⑫玄関でくるりと一回転してから、靴を履く』

――・・・・一体何が楽しくて、一人でこれをするんだ・・・・。

――でもあの子の事だから「やらなかったでしょう?」とオレの事など見透かしたように言うに違いない・・・・。

そう言われるのもまた嫌で、追ってきた猫を抱き上げて、共にくるりと回ったりして・・・。

「じゃあ行って来るよ」

猫にそう言うのが、十三番目の指令。

鍵を閉める事と、もう一度開けて「マフラーを忘れた」と言いながらクローゼットまで取りに戻る事が十四番目。

――いつ、会えるんだ・・・?

ようやくマフラーをして外に出てエンジンを掛ける。車内を指定のFM局にして、メモ帳の最後の指令。

『⑰ガレージを出てすぐにいつものカフェへ行って、いつものコーヒーとエッグサンドを頼む』

ここで会えるのかと思ったのに。

マスターは、一人でどうしたの?と言う顔で蓮を見て、「今日は彼女は来ていないよ」と言った。仕方なく出されたものを一人で食していると、マスターに「敦賀君これ」と言って渡されたのがキョーコからの手紙と新しいハートのメモ帳。

「これを読んでいると言う事は、敦賀さん真面目に私のメモ帳を実行して下さっているんですね。じゃあ、次です」

――どんなにおかしな指令であろうと、真面目に実行しなければ今日は彼女にはに会えないらしい。

「しばらく前だよ。キョーコちゃんがね、君が一人だけでいつものコーヒーとエッグサンドを食べに来たら渡して、って言ってたんだ。さっき思い出したよ。今日以前に一人で来た事、しばらく無いよね?」

彼は蓮に笑顔で問いかけた。

「ええ、そうですね。」

一人で来たのなんて本当に久しぶりだろう。いつも二人でしか来ないから、と一人呟くも、店内の音楽にかき消されて誰にも聞こえていない。

「どうです?社さんも私もいない、久々の一人は楽しいですか?」

メモ帳のトップページにはそう書かれていて、思わず苦笑いが浮かぶ。

『①マスターにお礼を告げて下さいねっ。で、次はまた車に戻ります。』

「ありがとうございました。また来ます。」

そう告げると「待ってて」と言って帰ってきたマスターは、また一つの包みを渡してきた。

「キョーコちゃんからだよ。さっきのメモ帳と共に僕にも手紙があったんだよね。中はキョーコちゃんスペシャルコーヒー。今の分もね、お代は以前に貰ってあるから」

『②お腹いっぱいになりました?そうしたらそのコーヒーを手に、高速に乗って神奈川の方面へ走ってくださいね。もし今十時すぎなら、FMに注意です。』

時計は今は九時四十五分すぎを指している。

――全部彼女の手の中ってことかな・・・・。

諦めて高速へと向かい、十時をすぎるとご機嫌な音楽が流れていくFMから、キョーコのインタビューが耳に滑り込んできた。新しいドラマの宣伝インタビューらしい。

思わず笑いが漏れてしまう。

「ドラマも好調だけど、京子ちゃんプライベートもやっぱり好調?」

「楽しくやってます。そうそう。今日これが放送される頃、私横浜にいるんですよね」

「へぇ?」

「その日は一日お休みなので、思いっきり遊ぶ予定なんです」

「彼とかな?」

「うふふ。そうですね、多分」

「隠さないの?」

「隠すと、逆に知りたがりません?」

「確かにね」

「それにウチの社長から言っていいと、いえ、寧ろ自ら言えと、言われていますから」

「それは面白い社長だね」

「はい」

「じゃあ、京子ちゃんのリクエストで締めましょう」

「幼馴染と競演した懐かしい曲です」

キョーコのその一言と、DJのコールと共にかかったのは”prisoner”。

――まったく、オレの気持ちを何か試しているのかな。

もう苦笑うしかない。仕方なく聴き慣れてしまった彼の歌声が流れて、一人少し混んだ高速を走り続けた。

指定のインターを降りると、次の指令は、

『⑫路肩に一度車を止めて私に連絡する事。』

「ねえ、ようやく着いたけど。ラジオではオレと一緒にいるって言ってたよね?」

「あ、ちゃんと聞いてくださったんですね、良かった~。思ったより早かったですね。じゃあ次は指定の海岸まで走ってください」

「はいはい。で、そこにいるの?」

「うふふ。来てくだされば分かりますから。」

相変らず答えはくれないらしい。

時計の針は既に二時を過ぎている。

電話を切った蓮は、再び指定の海岸まで車を走らせた。

『⑱砂浜に降りて、すぐ見える大きな岩へ向かう』

『⑲そこに置いてある黒のストールを拾ってくださいね』

『⑳最後はそこの岩陰にいる美人さんに声を掛ける事です』

冬の誰もいない海岸線には、ただマリンスポーツを楽しむ人たちが遠くの方に見えるぐらいで、その大きな岩らしきものは、すぐに見つかった。

キョーコの黒いストールが置いてある。ずいぶん綺麗なたたみ具合だった。

それを拾い上げて、岩の向こう側を覗いた。

「やぁ・・・・」

「「何だ」って顔ですね。少し遅かったですね、敦賀さん。もう少しで帰るところでした」

「ははっ。割りと頑張って来たんだけど。今は君一人なの?」

「あの子とはさっき別れましたよ。このあと私はすぐ近くで撮影があるので」

「そう・・・じゃあ琴南さんにストールを渡せばいいのかな?」

「いいえ?私はただ、敦賀さんがもうすぐいらっしゃるから、いらしたらこれを渡して欲しいと頼まれただけです。で、最初のページ。あの子に付け加えてもらいましたから」

「何を?」

「開けて下されば」

相変らずトップページにはメッセージがあって、

『誰もいない海岸でデートするのも捨てがたかったですけど、モー子さんと先に済ませました』

と書いてある。

『敦賀さん、①より前にモー子さんを現場まで送ってあげて下さい。向かう方向と同じですから。お願いします』

と確かにキョーコの字で付け加えられている。

「久しぶりに会えたのに私を何だと思っているんだか。今までの借り、帳消しにしてもらわないと割に合わないわね。」

一人でぶつくさと後ろの席で呟く琴南奏江は、冬だからって紫外線が無いわけじゃないのに、と更に呟いた。そして、潮風で少しぱさついたと髪を鬱陶しげに撫で上げながら、そこを右に、そこを左に、と指示をしていく。

「詳しいね」

「時間があれば今はあの海岸へ一人になりに行きますから」

「紫外線は?」

「・・・・・・」

彼女の矛盾具合は面白かったけれど、それ以降蓮も黙って運転した。

指示されたとおり運転すると、本当に現場に着いた。

その現場の監督が顔見知りだという事は承知していた。だから奏江にも、声を掛けていきませんかと誘われた。けれどちらりと時計を見ると、針はもう三時前を指している。

「いや、いいよ。よろしく伝えておいて」

「あの子の事、気になるんでしょう?」

「そういう訳ではないけど・・・」

「時計見ましたもんね。あの子に、これで借り帳消しね、と伝えてください」

じゃあと言って、ばたりと車の扉を閉めると、奏江は走って中へ消えた。

『① モー子さんに会えたんですね!よかったです!じゃあ次はF局の入っている横浜のRタワーへ来てくださいね。もうお腹がすいたでしょう?何かお腹に入れましょう?これはスケジューリング外です。適当に食べてください』

――・・・海に来た意味はただ琴南さんに会うためだけ・・・・?

――確かに次に向かう方向はあっているけれど、よく考えればここはさっき通った道。横浜までは引き返すだけじゃないか・・・・。

徐々に、会えない、意味が分からないという苛々で、蓮は顔の筋肉が引きつるのが分かった。それでも本当に横浜まで行かなければキョーコには会えないのだろう。

この苛々は少々の空腹もあるせいだと判断した蓮は、その現場近くから見えるコンビニに立ち寄った。誰もいないガランとした店内。高校生くらいの男の子が一人、レジ内で座り、雑誌に夢中になっていた。

そしてそのままレジでいつもの物を置くまで、蓮の存在に気付かなかったらしい。彼は顔をあげるとすぐに、驚いたような表情をして、一言呟いた。

「ほ、本当に敦賀さんが来た・・・・」

「え・・・・?」

「い、以前、京子さんも立ち寄ってくれたんですよ。そ、それでっ。「いつかこの時間ぐらいに敦賀さんが来ると思うから」とそう告げていったので・・・。本当にそうなるとは思わなくて。いやあホンモノの敦賀さんに会えるなんて、嬉しいなぁ」

彼は目があるんだか無いんだか分からない一重まぶたで、にこにこと笑顔を振りまいた。

――相変らず、オレの行動範囲は読まれているらしい・・・。

また一つにっこりと、いやむしろ苦笑いを残して蓮は礼を述べて、商品を受け取った。

「あ、それで、もし敦賀さんがいらっしゃったら、渡すように頼まれていたものがあるんですよ。ちょっと待っていてくださいね」

レジ回りを行ったり来たりした彼は、ピッと手際よく商品のバーコードを読ませていく。それが終わると袋に詰め、蓮を見上げて早口で話し出した。

「京子さんから、『もし敦賀さんが購入するものが栄養補助食品だけだったら、必ず温かい緑茶とシャケのオニギリを温めて、おでんの大根を無理やり付けてください』ってそう頼まれていたんですよね。まさか本当にそうなると思っていなかったです。あ、お金は預かっているんですよ。でも多すぎます。これおつりですから、京子さんに渡してください」

彼は 白い封筒の中におつりとレシートを入れた。そして口を挟む暇も無く押し切られて、少々戸惑っていた蓮にそれを手渡した。

人の良さそうな彼はキョーコの押し、いや無理やりな願いを断れなかったのだろう。

そしてその無理やりなキョーコの押しは、最後蓮のもとへ押し付けられた。

「・・・・どうもありがとう」

「また来てくださいねっ!!」

満面の笑顔の彼は、一重まぶたの目を極限まで細めながら手を振っていた。

仕方無しにその押し付けられた物を腹に収めて、少し落ち着いた蓮は約束ののF局へ向かった。

時計の針は既に三時半を過ぎている。

向かった先の地下駐車場を顔パスで通ると、見慣れた大きな車が目に飛び込んだ。

――社長がなんでいるんだ・・・・。

『② 裏口から入って、F局内に併設されたショッピングモールのMというお店で、マリアちゃんが好きそうなものを買ってね。買うものの指定は私からはしないので、『敦賀さんが』選んで。ラッピングもしっかりしてね!!もうすぐマリアちゃんの誕生日だから』

――なるほど・・・・・。今度はマリアちゃんに会うわけだ。社長付きで。

Mという店に入ると、可愛らしい雑貨とともに妙にビビッドで禍々しい雰囲気のするグッツの陳列棚が目に入った。

――この中で女の子が好きなものってなんだ・・・・?

「敦賀さん、お困りですか?」

苦笑いで店員が声をかけてきた。

苦笑いをする辺り、前にキョーコが一度訪れているに違いない。

「ええ・・・」

「京子さんから聞いてます」

「そうですね。相手は小学生の女の子なんで・・・・。普通の女の子が喜ぶものって・・・」

「このペンダントはどうでしょう?」

「いえ・・・・。やっぱりそこの大きなクマのぬいぐるみにします」

蓮でも横抱きになるクマのぬいぐるみにりぼんをかけてもらって、それを持った。

そしてメモ帳を開けると、

『③買えました?そうしたらそのままエレベーターに乗って最上階まで。マリアちゃんが待ってます』

時計に目をやると既に4時。

顔をあげると、敦賀蓮がクマのぬいぐるみを持ってエレベーターに乗っている、と、まるで宇宙人でも見たかのような視線を感じながら最上階に着いた。薄暗い空間。近寄ってくる小さな陰は、マリアだった。

「ほ、本当に蓮様が来たっ・・・」

「やぁ・・・・マリアちゃん。久しぶりだね。はい、プレゼント」

「蓮様がプレゼントなんて。ありがとう!おねえさまっ・・・・あれ?おじいさまもどこ?二人ともすぐに帰っていらっしゃるって」

周りを見渡しても社長やキョーコの姿は見えない。

思い出してメモ帳を開いた。

『④マリアちゃんと一緒にそのすぐ横にあるプラネタリウムでデートを。四時半から開演です。終わったら、またメモ帳を開いてくださいね』

――なるほど・・・。

「マリアちゃん、一緒にデートしよう?」

「お、お姉さまは?さっきまで一緒だったんだけど・・・お姉さまいないのに勝手にデートなんていいのかしら?」

「うん」

メモ帳の一番最後に二枚だけチケットが挟み込んであり、クリップで止めてあった。

「誕生日プレゼントだと思うよ」

「マリアには蓮様とお姉さまだけで十分プレゼントだったんだけど」

蓮はにっこり笑ったマリアの手を取って、さすがに一般席ではなく・・・社長が共に見に来ると見込んで用意したらしい離れた席に通された。蓮とマリアだけでソファに座ったのを見て、「宝田社長はお帰りですか?」と不思議そうな顔をした。

焚き込められていたアロマの香りとともに、真っ暗闇の中、静かな音楽と北半球の星々の説明が流れていく。あまり寝なかったせいで、半分うとうとしながら耳でその声を追っていた。途中で南半球に変わったのは覚えている。しばらくして、マリアが蓮の手をそっと握ったのは片隅で覚えていた。

*****

「眠り王子さま、起きて?」

唇がやわらかく触れた感触がしてふっと意識が戻ると、横にはキョーコが笑顔で座っていた。辺りを見回すともう誰もいなかった。

「キョーコちゃん・・・・久しぶり・・・・」

「ふふ・・・よく眠れたみたいね」

「うん・・・・」

「マリアちゃんが気をつかって起こさないでいてくれたの」

「帰っちゃった?」

「うん」

「そっか」

「大丈夫よ、すごく喜んでいたから」

「そう?・・・・あ、メモ・・・。まだ最後までやってないのに・・・君が来たって事は、もうおしまい・・・?」

まだのんびりしていた頭を起こすべく、大きく伸びをした。

「ううん。最後まで見てね」

『⑤私に会ったら、今日のデートの感想を言うこと』

「感想・・・?」

「私のスケジューリングはどうだった?」

「・・・おかげでね、一日中・・・君にいつ会えるんだろうって考えてたよ。」

「うふふ。私に会いたかった?」

「そうだね、まぁ・・・仕方なくこなしたよね」

「え~たまには敦賀さんが役のこと忘れて私のことだけ考えてほしかったのに」

「『たまには』は必要ないよ。夜はもう君で手一杯なんだけど、毎日。君こそ今日のこれはどうなの」

「だって今日のスケジュール考えるのにどれだけ時間かけたか・・・。私のほうが数倍敦賀さんの事考えたものっ!」

「さすがオレの行動全部読んでくれてありがとう。楽しかったよ」

「私は久々に私の大事な人といっぱいデートできた。敦賀さんも私の大事な人みんなに会ってくれたし」

「不破の曲までコースいれてくれてありがとう・・・で、最後オレとのデートのメモは?」

「一緒に夜景を見ながらゆっくりベイブリッジ渡ろう?でね、ホントの星空見に行くの。まだ日が変わるまで時間はあるものっ。そこから先はメモ帳はもう用意してないから。敦賀さんが決めてください」

「じゃあ・・・最後のページに付け加えてあげよう・・・・・」

『⑯最後君にたどり着けてよかったよ。敦賀蓮』

そしてもうスタンプは持っていないから、手書きで書いた。

『九十五点。プラスアルファーはこのあとにね』

手渡すと「ふふ・・・ありがと。」と、キョーコは目を細めて笑って、「昔はホント酷い点数しかもらえなかった」と軽く嫌味を呟いた。

「この後オレ以外の事を考えたらマイナス百点ね」

「え~~~~!今更そんな点数あるわけ??」

「オレは朝から置いて行かれた上に、今日一日君の事だけ考えていたんだから。それぐらいしてもらわないとね」

「・・・じゃあずっと運転の邪魔してる。ゆっくりベイブリッジ渡ろうね」

蓮は浜辺からずっと手にしていた黒いストールをキョーコの身体にかける。

キョーコは嬉しそうに、にこりと「あったかい」と言って微笑んだ。

残り5点。

負けず嫌いなキョーコとの楽しいドライブは、まだこれから。


2006.06.15

2019.07.06 改稿