いつくしむ 5

「おはよう蓮ちゃん。・・・っとそうそう蓮ちゃん、コレコレ。やっとダーリンからもらったの。蓮ちゃんに見せてやれって言ったから。ね、見て見てっ」

髪をセッティングしようと蓮が訪ねて椅子に座ったとたんに、そう言ってテンが蓮に渡したものは、一冊の雑誌。ある海外の有名な雑誌の一冊だった。

「オレが載っているやつですか?」

「そうそう、蓮ちゃんも載っているけどね。中の・・・」

ペラペラペラとページをめくっていき、

「これだーれだっ」

と言ってテンは蓮にそのページの見開きを見せた。


モノクロ写真の中に、男の子のアップ。
鋭い視線だけこちらに向けて写っている。


「・・・・?オレ、の、知ってる人、ですよね?誰だろう?」


めくった次のカラーページに映る一人の綺麗な男の子。青い目。金髪を流した姿。だれか「敦賀蓮」の知り合いにいただろうか。

皆目見当もつかないような顔をして蓮は鏡に映るテンを見た。

「なんと。キョーコちゃん♪でしたー!」

「・・・え?」

青い目、と、思って、カラーコンタクトか、と、思った。

「・・・テンさんのお仕事、ですか?」

「そうよぉ。いいでしょう、きれいでしょう~」

「すごいですね」

「キョーコちゃんってなんていい男なんだろうと思って、自分で作っておいて見惚れちゃいそうって思ったもの。王子様って感じ。キョーコちゃんに王子様ってどんなイメージって聞いたら、前に少しだけ役柄で海外の男の子をやったことがあって、とか、妖精の王子が、とか、色々聞きながら試行錯誤して、目を綺麗な澄んだ青にしてみたけど。キョーコちゃんっていつも思うけど、仕事となったら本当に何にでもなれるのねぇ・・・」

「・・・・」

蓮は何も言わずにそれを見ていて、次のページをめくろうとした瞬間に、テンに雑誌を取り上げられた。

「ダメ!」

「・・・・なぜです?」

「だってえ・・・キョーコちゃんきれいなんだもん・・・蓮ちゃん男の子だし・・・」

「え?あの、どういう・・・」

「見る?見たい?見ちゃうの?見ちゃったら、絶対に忘れられなくなっちゃうと思うわよ?なんていったって私の力作だもの!!芸術品級よぉ。帰りには、テンさんこの雑誌オレに下さい、って絶対蓮ちゃん言うと思うの。一冊しかないんだもの。これは私のだしあげられない!」

テンは妙にもったいぶった言い方でそう言った。

「・・・見てはいけないもの、なんですか?」

「そうじゃないけどぉ・・・ダーリンは見せてもいいって言ったけどぉ・・・・」

テンはしぶしぶとそれを蓮に再度渡した。

蓮が一枚めくると、キョーコの背中が最初に目に入った。
驚きと共に手と思考が一瞬止まる。

男性用の服を着て、紹介するとともに、一枚一枚脱いでいき、ボクサーパンツを履く写真と背中が載っている。

男性用の服が終わると、次に女性用の黒い冬コートを着て、長い金色のゆるいウェーブのかかった髪を腰まで伸ばしている。
まるでお人形。

また少しずつ服を紹介しながら脱いでいき、最後には正面からモデルとしての無表情での下着姿。綺麗な腹筋。

もちろん、下着メーカーの作品掲載用だ。

芸術作品としての写真だから、何か色を付けての写真とは異なる。

そして最後にはそれすらも取ってしまう写真。

背中越しとはいえ、長い髪を美しく散らし、それでも、キョーコの長くきれいで美しい足先までのライン。

そして、女性らしい腰のラインと、胸の膨らみも、背中越しに少しだけ見えて、それが美しい女性のラインも持っていることが強調されていた。

モデル用の、きれいな筋肉と肌をつくったんだな、と、蓮が思ってしまったところで、テンがその先の想像をするのを止めた。


「・・・・蓮ちゃんのえっち」

「は?」

蓮はテンの作ったひとつの作品として見ているだけだ。

キョーコであるとしても・・・何かいやらしい目でもしていただろうか。

もちろん、背中から足先まで、見たけれど。

「全部見たでしょ。可愛いキョーコちゃんの全部、見てしまったわね。忘れられないでしょうこの写真。欲しくなるでしょうこの雑誌。強烈な印象でしょう!美しい王子から美しい姫へのグラデーションを作り上げたこの私の素晴らしい作品!世界のテンの作品!」

「・・・・・」

蓮は何も言わずに特集記事の英語を追った。

数か月にわたって行われるジェンダーレス特集、らしい。

今回はキョーコの番だったようだ。

キョーコは単にモデルとしての役割だから、名前のみで「KYOKO」としてしか紹介されていない。

男の子も、女の子も、どちらもこなすマルチモデルとしての立ち位置らしい。


男性用紳士服から女性用のカジュアル服まで、着こなしている。

蓮にはできない仕事の一つ、なのかもしれない。

「キョーコちゃん、勝ち取ったの。オーディション。背が少し足りないかなって心配していたんだけど・・・そこはキョーコちゃんの実力ね。世界からたくさんの綺麗で男の子になれる女の子と、綺麗な女の子になれる男の子がたくさん来て、一年間の特集だから、男女六人ずつで十二人。そのなかに入ったの。すごいわよね」

「・・・なんで、教えてくれなかったんですかね」

「驚かせたかったから、私もキョーコちゃんに、内緒ねって言ったの。これ、日本での発行部数は少ないと思うから、ダーリンに蓮ちゃんも欲しがっていたって言っといてあげようか?」

テンは面白そうにそういった。

「・・・いえ。結構です。オレも載っているから貰えますし。そもそも彼女から何も聞いてないですから」

蓮は社長にからかわれる自らの姿を想像しただけでげんなりして、そう言った。

「やだ蓮ちゃん、キョーコちゃんから教えてもらえなかったの、すねちゃったの?そんなにすねないであげてねっ。キョーコちゃんからは、恥ずかしいから私から蓮ちゃんに見せてって言われていたんだもの。きちんと褒めてあげて!女の子が仕事とはいえ、芸術とはいえ、生まれたままの姿を見せるのはすごく勇気がいるんだからっ。キョーコちゃんのこの姿は神が作った自然芸術よ!そして私が作った芸術作品。変な目で見ないでね」

テンは繰り返しキョーコちゃんをたくさんほめてあげてと言った。

キョーコ自身も蓮の全身は見ているし、何とも思っていないようでもあった。

同じようなことだ。

蓮は大きく、ふぅ、と、一つ息を吐きだした。

 
 
*****
 

 
「・・・・見たよ」

と蓮は、車内に乗るキョーコにそう言った。

「え?何をですか?」

「海外の雑誌の仕事。エレ」

「わぁぁぁぁ・・・!うそ、もう出来上がったんですか?社さん、敦賀さんにお見せしたんですね?」

「・・・・オ、オレじゃないよお」

社は運転しながら、繰り返し手を左右に動かした。

バックミラー越しに、キョーコが全身赤面している姿が見えた。

「綺麗だったよ?」

と、蓮がテンに言われた通り褒めるとなおの事キョーコはさらに赤面して、

「す、すみませんでした、お目汚しを・・・」

と言うにとどまった。

「オレと同じ雑誌の仕事もしていたなら、教えて欲しかったな」

「・・・ミューズ様であるテンさんとのお約束だったので、絶対内緒って。社さんにも言わずにいてもらったんです、すみません・・・」

「なんで内緒なんて」

キョーコは顔から本当に火を噴きだしそうな位赤面しながら言った。

「で、できれば、その、海外の雑誌なので日本の方はご覧にならない事も多いですし!毎月の特集なので、同じような感じで皆さん撮っていかれるらしいですし、大胆な要求ものみましたけど。今「いつくしむ」を撮っているので、芸術作品を撮りに行くという理由もありまして。日本の、しかも知っている方に見ていただくなんてもうなんか、とてもとても」

キョーコは恥ずかしいと両手で顔を覆った。

「でも絶対に誤解しないでほしいのですがこれは佐保と同じで、芸術の一環ですよ?」

キョーコは言い訳がましく続けた。

そう言われて、蓮はテンに、キョーコをたくさん褒めろと言われたことを思い出した。

「・・・でも、よく、がんばったね。オレたちも服を生かすために体を出すときはあるけど、最上さんは生粋の男の子ではないから・・・。両方着こなせるなんてすごいね。かっこいい、見惚れるってテンさんが言ってた」

「ありがとう、ございます」

社は照れるキョーコと褒める蓮とを鏡越しにチラリチラリと様子を見るにとどまった。

蓮の気持ちも、キョーコの気持ちも、どちらもよく分かった。

全て教えてほしい、言ってほしい男側の気持ち、言ってほしくない程恥ずかしい女の子としての気持ち。

キョーコは特に蓮にだけはすべてを見られたくなかっただろう。

もし、キョーコの気持ちが、自分が推測する通り、ならば。

仕事を仕事として請けたのは、プロとしての事。それは京子としてのキャリアであって、最上キョーコ個人は、まだ瑞々しく初々しい一人の女の子だ。

今は仕事として請けたという京子の部分での自負で、蓮の前での気持ちを保っているのだろう。恋愛や見せる事についてあまりしたことがないキョーコならなおの事・・・。別に何か男性のために撮った作品ではないし、世界中の女性に向けての雑誌だから、男性が見る数は全体数の中ではかなり少ないにしても、それでも蓮に見られるのだけは恥ずかしかったことだろう。

社はそう思った。

「恥ずかしくないと思うけど、もし、それが恥ずかしいなら、オレはいつも恥ずかしく思っていなければならないよ」

蓮は自分を引き合いに出してキョーコに伝えた。

「そ、そうですけどぉぉぉ・・・敦賀さん、お仕事で全裸は無いでしょう?」

「半裸はあるけど全裸はないね、あ、でも、雑誌の特集で、ほぼ全裸はあったかな?シャワーを浴びるとか海とか色々?」

「・・・・そうですね」

蓮の恋愛特集の際の写真雑誌はすごくよく見た。

本人には言っていない。

それを思い出して恥ずかしくなり、また顔から火を噴きそうなほど赤面して、それをごまかすために、再度、「私のは芸術ですっ」、と、繰り返した。
 





2019.2.8