Raining 7 番外編 ケーキ同好会

「社君。今日はケーキ同好会だから、蓮を早く帰す様に。」


また今日もか、と、社は思った。
会長の趣味・・・らしい、ケーキ同好会。一体どんな人物と戯れているのかは分からないが、社長も参加しているし、セレブリティ溢れる会なのだろうと思っていた。

会長との面会を終え、社長室に戻る。蓮は今手がけているプロジェクトの書類を手に問答を繰り返していた。だから、秘書室へ引き返す。それがひとしきり終わり、相手が出て行ったところで、社は蓮に水を持って現れた。

「・・・社長。今日はいつもの同好会だとかで・・・プライベートタイムを増やせとの会長のお達しですので・・・定刻で退社予定に変更です。」
「そうですか。今日は面会も大して予定は入っていなかったから大丈夫でしょう。」
「・・・・・差し出がましいようですが。その同好会というのは一体どんな同好会なのでしょうか。」

社がそう言うと、蓮は、苦笑いを浮かべ、困ったな、という表情を浮かべた。大きく息を吐く。

「・・・その名の通りケーキを食べるための会なんですよ。異常なる数のケーキが並びます。」
「そのほとんどを当然・・・・」
「えぇ、会長が食べますよ。・・・父の趣味の会ですから。」
「・・・・・なるほど。」

納得したような納得しないような。会長の仕事と食へのこだわりと探究心は底を知れず、一体どこでそのエネルギーを消化しているのだろう、彼は今も強靭な肉体を維持している。

「ところで・・・・キョーコさんはお元気ですか?」
「え?」
「夢の中のお嬢さんですよ。」
「まぁ、そうですね。元気ですよ。多分。」
「多分?プライベートタイム、足りませんでしたか?」
「いえ・・・今は長期で海外に行っているので。会っていないんです。」
「なるほど・・・。」

社は少しだけ納得がいった。最近蓮の様子は、昔とあまり変わらない。やや厳しい表情を浮かべ、淡々と仕事をこなす。それが少しでも柔和になる、蓮のプライベートを共にしているだろう相手が、今は蓮のそばにいて欲しい気がした。

「・・・早くキョーコさんがお帰りになられるといいですね。」

蓮はひとつだけ柔らかくにこりと笑ったきり、再び、資料に厳しい目を向けた。



*****


「おかえり、最愛の息子よ。」
「ハイ♪元気でしたか?」
「・・・・・・・だろうと思ったよ。おかえり。」

ケーキ同好会は昔から父親が機嫌がいい時か、何かいい事がある時しか開かれない会なのだから、何かいいことがあるのだろうと思って、多分「そう」だと思った。

「バレンタインデーなので、戻ってきたんです。一週間だけ!驚かそうと思って言わないで帰って来ました。」
「うん・・・。」

バレンタインデーと言われて、社が帰りがけに車のトランクや後部座席に詰めるだけ詰めたチョコレートの山が思い出された。車内がそれだけでケーキ同好会の我が家と同じような香りで、既に食傷気味ではあったが、キョーコの顔を久しぶりに見て、ほっと和んだ自分がいた。

「せっかく帰って来たのに、敦賀サンてばあんまり嬉しそうじゃない!」
「蓮、どうかしたか?」
「いえ・・・そんな事はないです。・・・キョーコ、会いたかったよ。」
「えへへ・・・。」

蓮がキョーコに優しく笑いかけると、キョーコは少々照れて、嬉しそうに笑った。そして勢い良く立ち上がって、

「さぁ、今日はケーキ同好会、キョーコスペシャルなので、思う存分ケーキを食べてくださいね♪」

と言った。そして、一度消えると、ワゴンを何台も使ってケーキを運び、目の前に並べた。


「先生は、まずホットケーキの先付けから!」
「・・・・先付け?」

蓮は目の前に山に積まれたホットケーキの山に、目を白黒させている。

「今日はバレンタインデーですから、ケーキディナーです♪」
「・・・・・・・・・・・・。」


聞いただけで既におなかいっぱいだ、と蓮は思った。
はは・・・と軽笑いをする。
会長は至極上機嫌でぺろり、とホットケーキの山を平らげて、

「美味しかった。次。」

と言った。蓮はその姿を見守るだけで、キョーコが入れた久々の紅茶を口に含みながら、目の前に置かれたケーキにフォークを入れた。

「美味しい。」
「嬉しいです。敦賀さんはあんまり食べられないので、シンプルなチーズケーキと、夕食は・・・あの、あとで・・・・。」
「・・・・・・うん、そうだね。」
「キョーコ、次!」
「はーい。今お持ちします!」

キョーコは勢い良く立ち上がると、各種ケーキを出した。最後のホールのベリーケーキを満足そうに口にしたクーに、紅茶を出し、

「お客様、お気に召していただけましたでしょうか。」

と、会長に向かって恭しく頭を垂れた。

「満足満足♪」

会長の嬉しそうな顔を見てキョーコも嬉しそうで、その顔を見た蓮も嬉しそうだった。

「ケーキ同好会の新しい会員のお嬢さんのために、オレからプレゼントだよ。」

そう言ってクーは薄い封筒を渡した。


「なんでしょう?」
「今日はもう息子のために食事を作るなんて事はしなくていい。二人で私の知り合いの所で食事をして、ゆっくり帰国の疲れを癒やすといい。蓮、宝田社長のホテルを取ってもらったから、行くといい。お前の名前で取ってある。」
「すみません・・・。」
「なに、食事はオレの企画だがね、ホテルはボスの計らいだ。喜んでた。」
「・・・・・・・・・。」

蓮は、次に宝田社長に会った時、一体どんな事を囁かれるやら・・・と思った。横からクーがさらに付け足す。

「キョーコ、夜景が綺麗なレストランだ。星が近いし、演出も綺麗だ。何より味が良い。お前の料理の腕の足しにはなるだろう。お前が好きな星の妖精も月の女神も装飾に飾ってある。お前が言っていた姿を伝えて、オレが彫らせてみたんだ。見に行ってくるといい。きっと気に入ると思う。」

そう言われたキョーコが心から目を輝かせたから、(思わず噴出しそうになって)、次に宝田社長に会った時はからかわれてやるか・・・・と思った。

「キョーコ、さぁ、行こうか。」
「はいっ♪」
「キョーコ、着ていく服は息子に買ってもらうといい。それぐらいは・・・息子にいい所を譲っといてやる。」
「・・・・そうですね。あぁ、父さん。そうだ、車に乗っていたチョコレートの山は部屋へ運んでおきましたから、食べてください。オレはあとで彼女に貰う一つだけでいいですから・・・・・・ね?キョーコ。」
「うふふ。」

キョーコは蓮の腕を取って、もちろん、といった風の最強の笑顔を向けた。


「じゃあ、これは先生に。」


キョーコが別れがけに綺麗な包み紙の箱を最後にテーブルに置くと、その1分後には一粒たりとも箱の中には残ってはいなかった。


「キョーコ。ケーキ同好会、また開くからいつでもおいで。」
「はい♪」


二人は時間を埋めるように、賑やかに話をしながら消えた。普段あまり表情を変えない自分の息子が、それは柔らかな表情をしてキョーコを見つめたから、クーの表情も、甘い甘いチョコレートを食べた後のようにほこんでいた。





2008.02.14

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