椅子から見える、ちいさなおはなし。



キョーコは、街にでかけて一つの椅子を買った。
蓮に魔法をかけるために。
そして、それを、蓮にプレゼントするべく。


「敦賀さん、コレ、プレゼントです。」


クラシックなアンティーク風の椅子に真っ赤なリボンをかけて、キョーコは蓮の前に置いた。


蓮は「オレ用の椅子?」と言って、椅子の淵をその手で撫でた。


「コレから魔法をかけてあげますから、そこに座ってください。」


そう言って、キョーコは蓮の腕と服を引っ張り、半ば無理やり座らせた。


「あぁ、いい椅子だね。ちょうどいい。」
「でしょう?敦賀さんのお部屋にある椅子、全部調べてみました。そして、たくさん、たくさん、椅子を見ました。」
「そうなんだ。で・・・どんな魔法をかけてくれるの?」


そう蓮が言うと、キョーコはにっこり笑い、


「その椅子に座ると、幸せになります・・・っていう魔法です。キョーコの魔法、おしまい。」


蓮は何も言わず、じっとキョーコの目を見つめたから、キョーコは少々照れて、「目に見えない、心の魔法です。」とだけ付け加えた。


「その椅子、たくさん、たくさん見て、見て、何日も何週間もかけて、やっと『あぁコレだ』って思って・・・椅子、敦賀さん、座ったら、明日も座って、明後日も座って・・・変わらずに、できるだけずっとずっと・・・・永く、永く。」


うん、と言いながら、蓮はキョーコの言わんとするところを汲み取り、キョーコの手を取った。


「永く、永く、だろう?」
「はい・・・座ってくれたら、嬉しいなって・・・・。」


ゆびで蓮はキョーコの手の甲をするすると撫でて、優しく微笑む。


「プレゼントありがとう。」


永く、永く、蓮が座ることが、キョーコの幸せで、その椅子のしあわせ。
その椅子の上で、毎日、しあわせが座り、毎日蓮がキョーコの魔法にかかる。


蓮が帰って来て、そこに座り、明日の台本を読む。
キョーコが傍にやってきて、蓮の前に立ち、蓮の手に触れる。
キョーコは優しく微笑む。
蓮も、微笑む。



『その椅子の上に、未来のあなたがすわってくれますように。』


『あなたが座る未来のしあわせの前に、立っていられますように。』



キョーコも、蓮も、魔法が永遠に解けないように、さらに互いの魔法にかかる。


だから、しあわせは、一脚の椅子の上から始まる・・・・かもしれない。








2008.04.08














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