小鳥は甘い蜜を吸う

「バラほど兄さんに似合う花は無いと思う」


カインの胸の中。
長い事抱きしめあったままだった。
互いの愛しい体温。
甘い香り。


花々しく生きている香りがする。

「バラは孤高で、気高くて、誰よりもいいにおいで、そして美しいもの」

セツカはふたたび歩くべく、カインから離れて、一度伸びをした。

そしてセツカは、また、バラに顔を寄せてうっとりと目を閉じた。

カインは、花の茎をぐい、と引っ張って、セツカから再度引き剥がした。

「お前の肌を傷つけるのは、バラでも許さない」

セツカは、ふふ、と言って、面白そうにカインを見つめた。

「お前の綺麗な肌に触れて、キズをつけていいのは、オレだけだ」


カインは、首筋に、肩に、腰に、指を滑らせ、滑らかな肌を撫でた。
カインは妹に、一体どんな甘いキズを、残すのだろう。

「やだ・・・兄さん、指」

もう一方の手の指に、バラを掴んだ時に刺さったらしい棘。

「ああ」とだけ言った兄の手を取り、セツカは棘をそっと抜く。


抜けた棘の隙間から、ばら色が少し滲んで、思わずセツカが指を口に含んだ。

「セツ」、と、カインが呼んだから、視線だけ、兄に向けた。

「確かに、大事な兄さんの肌にキズをつけるのは、バラでも赦せないわ」

セツカが唇を離すと、カインは、セツカが唇を離した部分を舐め含む。

同じように視線だけをセツカに流した。とても甘い視線。

セツカは満足そうに微笑み返す。

小鳥はバラの前でくるりと美しく一回転して見せて、兄に寄り添う。

カインの視線と賞賛と独占欲の全てを一身に受けたいセツカの戯れ。

「バラが人になったらお前に似ているのだろう。誰の心も奪う」

カインは持っていたストールをセツカにかけて、美しい小鳥の肌を隠した。


2015.01.30