目の前のバラに顔を寄せるセツに、「セツ」と呼びかけると、 彼女は、「何?」と言いながら、振り返った。
そして、まるで小鳥のように小さく首をかしげる。
何も言わなかったから、不思議そうにオレを見て、 「変な兄さん」と言って、機嫌よく目の前のバラにそっと顔を寄せた。
それがまるで誰かに唇を寄せるようで、そのバラを引き離した。
「このバラ、とてもいいにおいがする、兄さん」
「・・・・・・・」
再び何も答えないオレに向かって彼女はにっこりと笑って、
「何も話さないのね。まるで兄さんも物言わない花みたい」
そう言って、オレの首筋に鼻先を寄せた。
まるで花の蜜を吸う小鳥のように、唇が触れた感触がした。
「いいにおい。兄さんのにおいがする」
だから、オレも彼女を引き寄せ、髪に唇を寄せ、口付けた。
いつものように、甘く誘うような、花の香り。
籠の中の小鳥は、オレの胸にそっと頬を寄せた。
2015.01.27