エイプリルフールの悲劇。

「蓮、明日はお休みどうするの。」

社は横で運転する蓮にそう告げた。
キョーコは蓮の車の中で、後ろから二人を見守るばかり。

「え?どうもしませんけど」
「キョーコちゃんも明日お休みだよね?」
「えっ?えっと、はい」
「だよね~。ふふん」

にんまり、と振り返りキョーコを見た社は、「春だよねぇ~」と意味不明なひとりごとを繰り返している。

「じゃあ二人ともおやすみ。また明後日ね」

社が降りた後、キョーコは蓮に「社さんの頭の中が春みたいですけど、何かいいことあったんですか?昇格したとか」と尋ねた。

「さぁ?いつもあぁだからね」

蓮はそれだけ口にして、キョーコの部屋に着いた。

「敦賀さんっ。見てくださいっ!!春になってイチゴが美味しくなったので、朝作っておいたんです」

蓮の前に冷えたイチゴゼリーのガラスの器を置く。

「うん。春らしいね。」

「えぇぇぇ~~~。食べたいとか美味しそう、がいいですっ」


「くすくす・・・欲しい感想決まっているんだ?」

「む~~~~。敦賀さん、フルーツでも顔が動かないっ。何を作ったら、「美味しそう」とか「食べたい」って言うんです???」


「さぁ?どれでもキョーコちゃんが作ったのは美味しそうだし、食べたいと思うけど」

「もう!社さんが作っても同じ事いいそうです。それこそ他の女優さんがロケで差し入れしても、同じ事言うんでしょう~~~~!!!」


「こらこら。どうした?なんで今日はそんなに機嫌が悪いの」

キョーコの口先が、むぅ、と歪んで、蓮のシャツの裾をぎゅっと握った。


今日の撮影現場でキョーコは「血糊べったり、殺される役」。なんとなく、久々に会えた蓮に優しくして欲しかっただけである。

「今日はエイプリルフールですよっ。ウソでいいから、私にも他の女優さんみたいに紳士な敦賀さんでいて欲しいです」


「却下」

「なんでです~~~~。恋人として、せめて一番優しく扱って欲しいって思っちゃダメですか?」

「ん~。恋人ならなおさら、紳士にはなれないね。一番優しくは扱うけど」

「どう違うんです・・・」

「くすくす。君の機嫌が悪いのは最近会えなかったから?」

「違いますよっ。血糊べったりが気持ち悪かっただけです。恋人に殺される、役でしたし。相手役を敦賀さんに置き換えてやったら、悲しかっただけです」

「寂しかったの?」

――私が役にすぐ感情移入するの知っているくせに。

キョーコは思い出してまた少しだけ悲しくなって、「違うもん」と少しだけ強がりを口にして、少しだけ口を尖らせた。蓮はキョーコの頭を撫でて、そっとおでこに唇を寄せる。

「今日会えるの楽しみにして、朝からこれ作ってくれたんだろう?」


「・・・はい」

そんな行為だけで尖らせた唇を大人しくできてしまうのだから、蓮は自分の手なずけ方を世界で一番知っているとキョーコは思う。

「これはあとで食べるとして・・・」

ちゅっ、蓮は音を立ててもう一度おでこに唇を寄せると、キョーコをベッドに抱えた。

「時間は、たっぷりあるよ。明日は仕事お休み・・・はウソじゃないよね。優しいのがいい?優しくないのがいい?エイプリルフールだからどっちを答えられても、いいけど。」

――・・・・・・・・・・。

「あ~~~~~!!!!日付もう越えてます~~~~!!!」


「それもウソかもね。もう、逃げられないよ」

――久しぶりにウソ吐きスマイルを見たわ・・・・・。

ウソをついていい日は、人の話を聞かなくていい日ではありません。

だけど敦賀さんにエイプリルフールは、鬼に金棒、振ってはいけない話題みたいです。

PS:後日。社さんが再びにんまり笑って、私に言いました。「久々の二人の休日はどうだった?」って・・・。本当の事など到底言えません。エイプリルフールじゃないけどウソついてもいいですか?




2006.04.02

2020.07.18 改稿