「クリスマスプレゼント、何あげるの?」
と奏江はキョーコに言って、キョーコは、「どうしようかなって思ってて・・・」と迷っている風の素振りをした。
「敦賀さんに物っていうのが、一番難しいのよね・・・身に着けるものや持ち物は全部良い物を持っているし・・・お仕事の関係で、つけていいものとかダメなものとか細かく決まっているし・・・」
「じゃあ、下着でも贈れば?最近デパートにディスプレイでこれでもかって位並んでるわよ。赤や緑の派手なパンツ(くすっ)」
「はっ?下着っ?やめて、そんなの贈るなんて、なんか、あの、」
「確信犯っぽくてイヤな訳?今更じゃない?」
「じゃ、じゃあ、も、モー子さんなら選べるわけ?そいういうの!!」
真っ赤になって慌てふためくキョーコを見て、奏江は、まだそこまでは踏み込めないのね、と、面白く思って笑った。
「だって、私はプレゼント、何を贈ったっていいんだもの。あえて身に着けるものの選択肢なら、宝石でも靴下でも下着でも、と思っただけ。敦賀さんが、アンタに下着をプレゼントされたらどういう反応するのかちょっと気にはなるけど、別に何だって良いんじゃないの?自分を思ってプレゼントしてくれたものなら、どんな物でも喜ばないはず無いもの。・・・・もー、そんな困った顔しないで!!!じゃあ身に着けるもので何も無いなら、部屋に置けるものとか、美味しいお酒とかにしたら?敦賀さん強いんでしょ?」
「うーん・・・・・・・」
キョーコはすっかり頭をグルグルと巡らせて、黙ってしまったから、奏江は付き合って入られないと思って、「じゃあ、事後報告しなさいよね、どうしたのか」とだけ言って、部屋を出て行ってしまった。
「モ、モォコサァァァン・・・・・・・・・・・・」
と、情けないキョーコの声だけが部屋に響いていた。
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「・・・・つ、敦賀さん、使えないとは思ったのですが・・・・・・」
キョーコが、蓮の様子を伺いながら持っていた紙袋を渡した。
「今年のクリスマスプレゼントです」
「ありがとう」
蓮はにこやかにそれを受け取り、蓮も、キョーコに紙袋を渡した
「クリスマスプレゼントだよ。お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。開けて、いいですか?」
「どうぞ」
キョーコは大事そうに紙袋から包みを取り出し、リボンをほどいて、包装紙を剥がしていった。
「・・・・わぁ・・・・きれいな時計」
蓮のクリスマスプレゼントは相変わらず何か豪華な雰囲気がして、見たことも無いような品のいい時計が一つ、入っていた。文字盤にはキラリと光る一粒の大きな石が見える。
「ネックレス、かな」
キョーコが蓮のプレゼントに見とれている間に、蓮もキョーコの渡した包みを開けて、そう言った。シンプルなプラチナチェーンに、青い石と、白いバラのモチーフが付いている。
「敦賀さんに、身に着けるもの・・・・ってダメかなって思ったんですけど、でも、わがまま、言っていいって言って下さったので・・・・。手作りにしたので、それならどこかのブランドでもありませんし、よかったら付けてください・・・ってわがままなんですけど・・・・。二重にすれば、腕時計の隣にでも、こっそり巻けますから・・・・」
「ありがとう。これから、着けるよ」
「私も、着けますね」
にっこり、とお互いに微笑んだ蓮とキョーコは、互いに渡したものを身に着けて、そして、抱きしめあった。
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「・・・・・・・・で。アンタ、一体何をプレゼントしたの?」
奏江が思い出したようにキョーコに訊ねた。
「手作りの、石のついたネックレスにしたの。ブランド物じゃなければ、と思って」
「ふーん。で、何貰ったの?」
「時計を、ね。コレ、なんだけど・・・」
キョーコが恐る恐る服の袖を上に持ち上げて、奏江に見せた。
奏江はなぜかため息をついた。
「何?なんか、あるの?」
「いいえ・・・・(敦賀さん・・・)」
「だって、ため息だなんて・・・そんな」
「違うわよ。男が女に時計を贈る理由ってなんだか知らないのって事」
「・・・・・・・・・?」
「もう。だから、半分プロポーズみたいなものじゃないの?アンタのこれからの時間が欲しいって事。特に、あの人のように、アンタをおかしなぐらい溺愛してるような人がわざわざ誕生日にくれるなんて」
「・・・・・・・プ、プロっ・・・・・・・」
キョーコは奏江の言葉に少し動揺して、そして、小さな反論をした。
「あのね・・・・プ、プロポーズの言葉も、一緒にプレゼント、された、・・・から・・・・・・それも報告の一つだったんだけど・・・・」
「はっ・・・・」
驚きすぎて、もう、最初に言ってよ、という文句すら、奏江の口からは出てこなかった。
「一生、そばにいてって・・・。他の、男の人を、知らないでって・・・一生愛してあげるからわたしがほしいって・・・。あと、その・・・・いつまでも待つからって言ってくれてて・・・・だから、」
そこまで言ったキョーコを手で制した奏江は、半ば満足とばかりに言った。
「あーはいはい、ストップ!もういいわ。ごちそうさまっ。もーあの人、アンタを溺愛しすぎなのよ。アンタがこの世からいなくなったら、多分生きていけないわね」
そして、どんどん、真っ赤になって、もじもじもじもじと肩をすぼめるキョーコに、奏江は続けて言った。
「よかったじゃない、おめでとう」
「うん・・・・・」
「幸せに、なりなさいよね」
「うん、ありがとね、モー子さん・・・・」
「私は、何もしてないわ」
嬉しさと共に、キョーコが何か遠くに行ってしまうような感覚がした奏江は、勢いよくキョーコの手を握って、驚いたキョーコを、自分の腕の中に引き入れ抱きしめて、もう一度、
「おめでとう」
と、キョーコの耳元で言った。
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「モ、モー子さんが、おめでとうって、言ってくれて・・・」
「うん・・・」
心から照れながら、キョーコは蓮の腕の中で今日一日の報告を告げた。
「それから・・・時計、なんですけど・・・・」
「うん」
「私の、一生分の時間のうち、恋や愛のための時間は、全部、敦賀さんに預けておきますので・・・あの、その・・・・だから・・・・」
「うん・・・・・」
蓮は、キョーコの目をしっかりと見つめて、それを聞いていた。
照れて目を伏せて、少しだけ震えるキョーコの声が、とても、愛しかった。
「預かったら、二度と、誰にも渡さないよ・・・」
「・・・・・・」
キョーコは真っ赤になって頷き、降りてきた蓮の熱い唇を受けとめた。
「・・・・っ・・・つるが、さんっ・・・・・まって・・・・」
「なぜ・・・?大丈夫、預かった以上、倍にして、君に返してあげるから」
にっこり、と蓮は綺麗に微笑んだ。
その表情を見て少々逃げ腰になったキョーコを蓮はしっかり抱きしめて、額をあわせ、キョーコの目をのぞき込んだ。
「増やすには、まず君から少しずつ、預からないとね?」
「・・・・・・っ・・・・・・」
照れに照れたキョーコの頬に、唇に、喉もとに、胸元に、蓮は優しく口付けていった。
とくとくと蓮に向かって流れるキョーコの時間と、どうしようもなく高鳴るキョーコの心臓の音が、蓮の肌に伝わっていく。
そんなキョーコの恋時間を得るべく、蓮はキョーコの肌に、ゆっくりと指を滑らせていった。
2009.12.25
ハッピーバースデーキョーコさん☆