「これ、もらったんだ」
蓮がそう言ってキョーコに袋を渡した。
「何ですか?」
「たぶん化粧品。CM撮影した美容マスクかな。使う?」
「使う!」
キョーコは嬉しそうに即答する。
蓮は隣に座り、体をキョーコに向ける。
もうすでに化粧を落としてあるキョーコの肌に蓮は触れた。
「化粧、外で落とさないでね」
「そうですか?濃すぎるので落としたいと思う時もありますけど」
「将来的にはね。今はヤダ。このそのままの肌を見る事ができる特権は、マネージャーとメイクさんを除けばオレだけ」
「メイクない方が、いい?」
「そういう訳ではないよ。そのままの姿も好きと言いたいだけ。君が化粧を好きなのは知っているけれど、決して化粧をしているからとか美しい写真だけを好きになった訳ではないし」
「うん」
すべすべの肌を蓮は何度も撫でる。
「洗いたての肌のにおいが、きっとすごく好きなんだと思う。ただのキョーコちゃん、に、戻っている時が。多分お風呂に入りたての肌を誰にも見せたくないと思うだけだと思うな」
蓮は頬に鼻を寄せて言い、頬にそっと唇を寄せた。
キョーコは笑い、肩を少しだけ上げる。
「オレも、落としてくるよ」
蓮は立ち上がる。
キョーコは「うん」と言ってその姿を見送る。
もらった紙袋の中から包み取り出し、開ける。
高級なパックが入っている。すぐに一枚顔に貼り付けた。
しばらくして蓮が入ってきたから、慌ててパックを外す。
「使ってみたの。どう?」
まだ外したてで、うるうるする肌を蓮に見せる。
「うん?いいんじゃない?でもそんなに慌てて外さなくてもいいのに」
「パックをしている顔ってどうしてあんなに間抜けなのかと思って・・・」
「そう?」
「人に見せてはいけない顔だと思うのです」
「そうかなあ」
「そうです。せっかく美しくなろうと思っているのに、紙一枚で百年の恋もすっかり覚めてしまったら困ります」
隣に座る蓮の体にキョーコは体を寄せた。
ホカホカする肌から、洗いたての匂いがする。
「敦賀さんの洗いたての匂いも、サラサラの髪も、好きですよ」
キョーコの指は蓮の顔に触れ、髪に触れて、それから、ぎゅう、と、蓮を抱きしめる。
「オレは口説かれてる?」
「いいえ?まったく口説いていません」
キョーコは、体を起こすと蓮の腕に自分の腕を絡めて、それから、嬉しそうに、ふふ、と、笑った。
2022.3.5