Love is…




ある年の12月25日の夜は蓮の部屋ですごした。

キョーコが作ったサラダとスープと、二人の持ち寄りの食事でテーブルは埋まった。蓮がどこかから用意したそれは派手で豪華な大きなケーキは、「これはすべて体に気を付けている人用の野菜のケーキだから安心して」と言った。

「罪悪感が無いのがいいよねってこの間君が特集を見ながら言っていたから、これがいいかなと思って」

「頼んで下さったんですか?」

「届けてもらった」

蓮も目の前の総菜を一口食べて「うん」とだけ言った。

蓮は外の食事であまり何かを言う人物ではない。

おそらくおいしい、の意味なのだろうとキョーコは思う。

「すごくおいしいです。ありがとうございます」

キョーコもニコニコしながら同じようにそれをほおばる。

総菜もケーキも、甘さも含めてすべて野菜から作られているらしい。

しかしながらケーキがすべて野菜だなんてと目の前に置かれている豪華なケーキをキョーコはじっとみつめる。

「これがヴィーガンでグルテンフリーのケーキだなんて信じられません!」

「有機栽培の野菜だけで出来ているらしいよ。今ニューヨークで流行っているんだって。そのお店が日本に出来たと聞いたからちょうどいいかと思って。食事もおいしいとかでモデルや俳優たちに人気らしいと聞いたから」

蓮は箱に入っていカードを手に取り眺めて、はい、と、キョーコに渡した。

世界中のロイヤルからV.I.P御用達のお店とのことだった。

「食べていいんですかね?なんかすごく贅沢な気持ちがしますね?」

「気に入ってもらえた?」

キョーコは顔を縦に何度も強く振った。

ケーキを切ってしまうのが惜しくて顔を近づけてしげしげと眺めた。

キョーコが無条件に気に入った理由は、ケーキの上は何か白いもので作られたお城に、かぼちゃの馬車が上に乗っていたからで、落ちているガラスの靴は一体何で出来ているだろう?と、じっと眺める。

箱庭のような芸術的なケーキで、まるでキョーコのために作られたような気がした。

「特別に頼んで作ってもらったんだ。絵はアメリカのランドの設計とか絵とか描く人を知っているからその人に頼んで描いてもらって、それで再現してもらって・・・」

「え!」

アメリカのランド?設計?そんなロイヤル御用達の店にオーダーでケーキを作ってもらう敦賀蓮はやはりロイヤルなのではないのか、いったいどれだけかかるのか・・・そんな気持ちでそろそろ、と、目を上げる。

「そこで食べても良かったのに家で食べるというから。あの店はロイヤル御用達だし、視線を気にするなら個室も使えたのに」

キョーコは何も言わなかったのに蓮は何かを察してそう言った。

「まさか、ここに並ぶきれいなお野菜も」

「うん、コースのものをアレンジして詰めてもらったよ?オレにはこんなに作れないから」

蓮はニコニコ、と、笑う。星マークが最高につくお店だろうに、恐らく昨今の流行りの、ネットオーダーだとか届けてくれるとかには対応していないだろう。何かしらの特別待遇なのではないか。蓮はそれをキョーコが喜ぶなら当然のことのようにやってのける。

そういう人だと気付いたのは、付き合ってしばらくしてからだった。キョーコが少しでも目を輝かせたもの、反応したものをよく覚えている。どんなことも頼めばできない事は無いと言わんばかりの蓮の依頼力には驚くこともしばしばある。蓮が頼むからなのか、蓮の頼み方が上手なのかは分からないけれども・・・。

「ケーキを切るのが惜しくて」

とキョーコはまだまだ眺めていたいと言った。

何枚も色々な角度から写真に収めて、ようやくナイフを入れて切った。

「でね」

そう言いながら立ってどこかへ行き、そして手に箱を持って帰ってくる。

「これ、プレゼントに」と渡したのは、今見たそれと同じ箱庭のような小さなボックス。

「せっかく君が好きそうな人に絵で描いてもらったから同じジオラマ、作ってもらった。原画の絵も、プレゼント」

はい、と、渡された中には、ケーキにはいなかったシンデレラと、王子と。絵にも入っている。絵も、世界中がよく知る絵のタッチそのままだった。

「ありがとう、ございます・・・」

すごい、と、何度言葉にしただろうか、360度眺めて、それから、ケーキには王子と姫がいない事に気づいて思わず口にした。

「ケーキ、再現したと言ったのに、姫たちがいない、ですね?」

「うん、主役は君だからって。姫は君、ということなんだろうね」

ということは王子は、と、考えて、キョーコは一瞬でふわ、と、顔を赤くした。

絵の中も、ジオラマの中に、自分たちを収めてくれたらしい。

よく見たら絵の姫たちの顔は、自分たちの顔に寄せてくれているような気がする。

ジオラマのミニ王子の体のバランスは蓮に見える。

ということは、この姫は・・・。

絵もまるで海外の美術館に飾られた肖像画のようだ。

「気に入ってくれた?」

キョーコは取れてしまいそうなほど何度も首を縦に振った。

「この部屋のどこかに、これ、飾ってもいいですか?」

「うん。一緒にいつも見える所に置こう?」

蓮はもちろんという顔をして頷く。

「だってこれ、私と敦賀さんと・・・ですよね?」

「そうしてくれたみたいだね。それはオレの依頼では無かったんだけど、知り合いとはいえ、相手が相手だったから。美術館にもアメリカのランドにも飾らない訳だしね。誰に渡すのか、どこに飾るのか、きちんと契約をしなければならなくて。その時どういう用途でと話をしてサインしたから君を調べたんだろう。オレたち二人のための門外不出の一点物、だよ?気に入ってくれるとうれしいな」

「へ!?」

キョーコは目を何度かぱちぱちして、そして、もはや規模が大きい話過ぎて、首をかしげた。

***

今日はベッドサイドのサイドボードに置物は置いた。

もう少しだけ見ていたかった。

絵は改めて額縁の専門家に壊れないよう飾ってもらうことにした。

****

ベッドの上で二人は座り、キョーコはベッドの上で正座をするから、蓮はキョーコの体をすっぽり体の中に入れてしまった。それから、腰を両手でつかんで、足を投げ出させるため、体を浮かせた。体勢を崩しながらキョーコは蓮の腕の中にすっぽりと埋まった。

「待って、待って、待って下さい、もう」

蓮は腕の中のキョーコの髪を何度も撫でて、髪に口づけて、まるで何も聞いていないかのように先にすすめようとする。

キョーコが正座したのは目の前に袋をベッドの上に置いたからだ。

社に貰ったプレゼントと対面するため、頂き物の前で少しかしこまっただけだった。


「社さんからはこれをプレゼントにもらいました。敦賀さんと一緒に開けてみて、と。」

キョーコは大きな箱がひとつ入った袋を蓮に見せた。

蓮は何度か小さくうなずく。

「そうなの?今開けたいなら開けてみたら?」

蓮はキョーコが箱をあけている間も、手が届く範囲で体中撫でて、それから顔が届く範囲で体中に口づけた。

キョーコは紙を包装紙を綺麗に取り除いて、畳んだ。

丸い球体の置物のような写真が付いた箱。

「家庭用・・・プラネタリウム、と、書かれていますね?」

「へえ?」

蓮は腕の中のキョーコに触っていられればそれでいいから話半分だ。

キョーコは中を取り出し、説明書を読む。

部屋で天井などに映すらしい。

「部屋を暗くして天井に映してみても、いいですか?」

「いいよ?」

キョーコは体を起こして床に降りる。

蓮もおりて、一緒にセッティングしてスイッチを入れた。

「リラックスする音楽も、流れ星も、自動で時間と共に移動したりするみたいです。とりあえず全部オンにしておきますね?」

蓮はカーテンを全部閉めて、部屋のあらゆる電気を消した。

キョーコが機械をすべてオンにする。

「わあ」

天井中にまるでプラネタリウムに行ったのと同じ星空が映る。

それはリアルな映像で、緩やかな音楽も流れる。

それからキョーコはベッドにもう一度正座して、やはり蓮に抱えられてと、先ほどの動作をもう一度繰り返して、蓮の腕の中で天井いっぱいの星空を眺める。

真っ暗な中、探して互いの手を絡めた。

「流れ星の機能、いいね。時々あちこちで流れてるね」

「何をお願いしますか?」

「うん、きっといつも同じだと思う。こうして一緒にいられること、かな。君は?」

「・・・はい、そうです、ね。同じが、いいです」

キョーコが言い終わる頃にはキョーコはあお向けで天井を仰いでいた。

キョーコは唇が蓮にゆるやかに塞がれて、目をつむるから、美しい星空が見えない。

するすると身につけているものがなくなり、キョーコの肌はすこし冷えて、蓮は上掛けを被った。

上掛けの天井にも星は見えなかった。けれど、時々、何度か新鮮な空気を吸いたくて、蓮の指から逃れたくて、上掛けから顔を出した。

すぐに引き戻された。

ふとした時に、目の端が流れ星をとらえた。

けれども、心と体は蓮の事しか考えられなかった。

多分、それでよかった。




キョーコはぼんやりとしてからしばらくして緩やかに意識が戻ってきて、まだ動けなくて、流れた星の数を数え始めた。

「11個目」

キョーコがそう言った。

「何を願うの」

蓮はもう一度聞いた。

「何も」

「そう?」

「ただ、体が、今は敦賀さんのことしか思えないだけです」

「それはいい。ずっとそうでいて」

蓮はキョーコに顔を寄せて何度か唇を塞ぐ。

蓮と呼んで、と囁く。

キョーコが何度か、蓮、と呼んで、蓮もキョーコ、と、囁いた。

また、目を閉じて、星が見えない。

互いに、愛おしくて仕方がない、という気持ちがする。

キョーコが離れがたくて蓮の首に腕を伸ばす。

それだけで、もう何もいらない。

そんな気持ちがした。

蓮はまた上掛けをかけた。

キョーコの体は蓮の事しか考えられなかった。

キョーコの声が、何度も蓮を追い詰める。

キョーコの目の奥に何度も流れ星が煌めいた。

あまりに激しくて、偽りのない星の輝きだった。

そして、星の煌めきと共に、キョーコと蓮はしばらくの眠りに落ちた。




***



おまけ

「どう?プラネタリウム気にいってくれた~?あれ、今、流行ってるってきいて」

社は数日後キョーコに聞いた。

「気に入りましたよ」

と一緒にいた蓮が先に答えた。

キョーコへのプレゼントの答えを先に蓮が答えるから、キョーコが真っ赤な顔でうつむく。

「キョーコちゃんへのプレゼントだったんだけどな。でも二人が気に入ったならいいか?」

と社はつぶやき、キョーコに、ニコニコ、と、笑いかけた。

天井いっぱいに映し出された星の美しさももちろん美しかった。

でも蓮の事しか見ていなかった自分を思い出して、急に恥ずかしくなったのだった。

キョーコは蓮の背中に隠れて顔を隠した。

「え?なんで?オレ何か変なこと聞いた?」

「いいえ?」

と蓮は息を吐きながら何事もなかったかのように答えた。






2021.12.29(2021.12.25+4日)

遅くなってしまったけれど、きょーこさん、おたんじょうびおめでとう♡♡♡

(蛇足いらなかったかな。綺麗に終わらせた方が良かった?いつくしむの番外編にするか短編にするか迷ったので本になった時に同時に入るのではないかと思われます。)