二人の重力に沈んだベッドの上。
腕の中に抱きいれて額をあわせる。
そっと微笑む彼女は、いつも通り。
「目を閉じて、キョーコちゃん」
「やですっ。ふふっ」
そうして拒むのも、いつも通り。
「蓮の目にね、鏡みたいに私だけが写ってる」
「キスを、したいんだけどな」
「もっと見ていたいのに」
彼女の鼻の頭に自分の鼻を何度もすり寄せて、オレは先に目を閉じる。彼女から漏れるちいさな吐息が唇にかかったら、それが合図。
“仕方がないわね”、という彼女の優しい吐息とOK。
オレはもう一度目を開いて、彼女のやわらかい唇に自分の唇を這わせる。
触れては離して、何度も彼女を確かめる。
互いに多忙な日々の中の、短くも甘いひと時。そこで互いに確かめ合う。額をあわせたまま、いろいろな話をする。この時間のがオレの恋のすべて。この子と自分を確かめる大事な時間だ。
しばらくお互いに何度も繰り返す。また額をあわせて鼻の頭をすり寄せて・・・甘い吐息を漏らす彼女の声が聴きたくて、柔肌に指で触れて、そっとなぞった。
「薄目なんてどこで覚えてきたのかな?」
「蓮がどんな顔して私を見ているのか、見ていたい」
「やればやるほど、いや・・・。今夜は閉じさせたいよね」
彼女の大きな瞳はまっすぐにオレを好きだと語り、その中にオレの瞳だけが写る。
彼女がしたように、その目の奥を覗き込んでいるだけで、抱えている身体は熱く火照り、混ざる鼓動は早くなっている。
「ドキドキ、しているね?」
「うん・・・」
今度先に薄く目を伏せたのは彼女。
薄紅色に染まった頬と、再度無意識に漏らした優しい吐息のサイン。
そうして素でオレを試して誘って・・・なのにまるで初めてのように恥らう。
すべて無意識なのがどうしようもない。
指先を絡めて、伏せたまぶたにそっと口付けを落とした。
「やっぱり今夜はそのまま薄目にしておいで」
もう何も言わせないように唇を塞いで、どこまでもやわらかい小さな舌をゆるりと絡め合わせた。
オレは目を閉じない。
彼女はついに、無意識に目を閉じた。
「んぅ、蓮の目・・・はっ・・・今でも私に恋してる?」
「ふ、可愛い。君の目は今でもオレに恋をしている目だね」
「ずるいっ、ふっ・・・ぁ・・・・やっぱり私ばっかりすき・・・でっ・・・」
「分かってないな。薄目にしておいでって言ったのにね?」
君にどうしようもなくやられているオレの目を、見て。
彼女にきつい熱を刻み残しながら、やわらかい唇に触れて、そんな伝言を直接唇にした。
彼女は反射的にちぅとオレの唇を吸って、強く握り返された指と、ぎゅっと強く閉じた瞳が返答だった。
「やっぱり見られなかった」
「オレはずっと見てた」
「うん・・・」
「大丈夫、すごく可愛かったよ?」
「・・・・」
「リベンジはいつでも待ってるから」
「ふふ、次回は負けません」
再び薄く伏せた瞳の中にオレを写してみようと、額をあわせて鼻をすり寄せる。
いつまでも変わらない、君の繰り返す優しい吐息。
君の瞳の中に、永遠を見る。
君のその大きくて丸い瞳の中に、繰り返し写す瞳は、もうオレだけにして。
そしてずっとオレに可愛く負け続けていて・・・。
2006.07.01
2020.07.18 改稿
この話は、お客様からのリクエスト@「未来の二人」でした。