confession

 キョーコちゃんが蓮のそばにいるとき、オレは多分最も安心をしているに違いない。

 蓮が、部屋に入ってくるキョーコちゃんを見て、穏やかにふっと目を細める瞬間、きっと、オレもほっとしている。

 蓮が唯一と言っていいほど素直に、心を開く瞬間を見るのが好きなのかもしれない。

 男の素の笑顔なんて、どうにも目を覆いたくなるような気もするけれども、蓮のキョーコちゃんへの視線は演技でもなく嘘でもなく愛想笑いでもなく、望んだ存在を目にした時の、最もほっとした顔。二人が一緒にいる時の、独特の安心感。

忙しい二人は外で会っても、顔を見て微笑んで、それだけで殆んど全ての会話を終了する。互いに信頼をしている証なのだろう。

 でもたまにキョーコちゃんは蓮の顔を見てすぐに、話さずにはいられないのだろう、嬉しかった事をそれは嬉しそうに蓮に報告して、蓮はただその話を穏やかに聞き入っている。

 そうした普段の静かな逢瀬は、二人の性格からだと思っているけれど、実はオレが横にいるからなのだろうか?

 もしかして、オレって邪魔なのかな・・・・。

 そりゃあ居ないに越した事はないけれど、オレだって仕事なんだっ。二人だけの時間は、仕事のあとでもっと甘い時間でも何でもとってくれれば・・・・。

 ・・・もちろん、オレなんかに言われなくても、蓮は甘い甘い時間をキョーコちゃんのために提供するのだろうし、キョーコちゃんも、誰も見たことがない、可愛い顔で蓮に甘えるのだろうけれど・・・。

 この、二人でいる時間が長くなっていくにしたがい、ゆっくりと膨らんでいく穏やかな雰囲気、優しく柔らかな時の中、たとえ少々お邪魔だったとしても、傍らに身を置くのは悪くないと思っている。

「・・・・社さん、社さん?」

「え?あ、うん、ごめん、なんだっけ?」

「そろそろ帰りましょう」

 蓮に思いをはせていて、うっかり時間を促されてしまった。「どうかしたんですか?社さん」

 横でキョーコちゃんも珍しそうな顔をしてオレを見ている。まさか、二人の事を妄想、いや、考えていたとは言いにくい。

「ちょっと考え事をね」

「毎朝早いですもんね。お疲れですか?」

 キョーコちゃんは顔色を伺おうとしてオレの顔を覗き込んできて、二人の恋愛模様を想像していた事もあって、思わず両手を突き出し、目を合わせたくなくてあわてて首を振ってしまう。

「違う違うっ。・・・・あ、蓮、今日は俺、少し寄り道して帰るから、二人で帰って」

 そうだそうだっ。それでいい、なんて気のきくいいヤツなんだ、オレ!

 と思ったのに。

「社さん、きっとデートだね」

 蓮はさらりとキョーコちゃんに言った。

 え、なんでそんな話に。

「何が?ちがうよ?」

「え?社さんって、彼女さんいたんですね?あ、だから、上の空だったんだ、もう社さんてば早く言って下さい!長年のお付き合いなのに黙っているなんてっ」

「違うってばキョーコちゃん、何を言ってるの」

「もう実の所すぐにでも帰りたいって言って下さればいいのにっ!私のんびりしてしまって」

「だから、」

「あっ、それに知りたいです、社さんのお相手がどんな方なのかっ♪」

「だから違うってばぁっ!」

 もう全然信じてくれない。蓮も一言、

「照れなくてもいいんですよ、社さん」

 ・・・だから、ちがうんだよお~~~信じてくれよぉ(泣)。

違うなんていう言い訳は、真実であってもちっとも役に立たない。かといって、何を考え込んでいたかは、間違っても口には出来ないけれど。

きらきらした目をしてオレを見ているキョーコちゃんの頭を、蓮はくすくす笑って一度撫でて、そしてオレを見て、

「いつものお返しです」

 と小さく笑った。

キョーコちゃんは何の事か分からずに、不思議そうに首をかしげて、蓮を見上げていた。




2011.4.22 作成

2019.06.25 掲載

本用献上原稿、発掘品です。