つけたままになっていたテレビ画面を見ると、過去に放映された映画が流されていて、蓮の姿が映っている。共演女優とのキスや強烈なラブシーンが、とても美しい映像と音楽で流れていく。
キョーコは一人最後まで映画を見て、そしてテレビを消した。
蓮の事は、多分、俳優としての姿はよく理解できる。俳優として仕事をしている間、彼は想像上の誰かになっている。その仕事が終われば関係ない事もよく分かっているけれども。
それでも、そのように熱を持った場面を見ると、すごいな、と思う反面、目をそらしたい感情がゼロとは言えない。仕事をする事によって、自らの恋愛感が変わる事は無かったとしても、体の中に経験として理解される別人物との恋愛遊戯もあるだろう。
芸術であったとしても、あの映像がもつリアルな湿度、香り、快楽・・・リアルであればあるほど、強い独占欲が渦巻く。同じ俳優としてそんな事を思ってしまう自分を許しがたい程に・・・。
そして蓮の甘いキスを知る人物が増えて欲しくないなんて口にしたら、これは仕事だよ?とでも言いながら、きっと蓮は呆れるに違いないのに・・・・。
キョーコと京子の感情の境目で、キョーコは、行ったり来たりを繰り返していた。
*****
「お願い、このまま」
キョーコは自ら蓮に体を寄せ、腕の中に入り込む。暖かな体温が頬に触れて安心した気持ちになる。
蓮も何も言わずにキョーコを引き寄せ、ぼんやりと腕の中でくつろぐキョーコを眺めていた。キョーコが満足するだけ、抱きしめているつもりだった。
「・・・甘えるなんて、変?でも・・・・何も聞かないでそばにいてくれると嬉しい」
そう言うという事は、何かあるからこうして腕の中で丸まっているのだろう。不安、緊張、疲れ、逃げ出したくなるような気持ち、このまま永遠に穏やかな夜が続けばいいと思う気持ち、もっと混濁したできれば見つめたくない気持ち。
何がその中で渦巻いているのだろう。聞くだけなら出来るよ、と言おうかなと思って、でもそれも蓮の口から出る事は無かった。
今の自分が望まれているのは抱きしめることで、キョーコが抱えている何かと、面と向き合うことが出来たなら、そのうち自ずと話してくれるのだろう。
キョーコは蓮に擦り寄り、キスをねだる。先ほどの映像で見たような甘いキスをしたくて、自ら蓮の唇に触れる。脳裏に残る映像と嫉妬の感情を、蓮の感覚で上書きしたい。
何度も何度もキスを重ねながら、キョーコの指は蓮のパジャマのボタンで遊び始める。蓮もキョーコのパジャマのボタンに指をかけて一つを外すと、キョーコははっとして、腕の中から蓮を見上げた。
「ごめん・・・君がオレのボタンで遊んでいるから」
蓮は安心させたくて穏やかに笑う。ボタンを外され、その後の行為を想像して嫌がったのだと思った。
「・・・・ううん・・・・したい・・・」
キョーコがそんな事を言うなんて珍しいと思いながら蓮はゆっくりとボタンを外していく。
映像で蓮の恋愛風景をまるで他人のように見てしまったせいで、恋愛したてのように苦しさや切なさがキョーコの体の中でうごめく。
「蓮・・・」
『映画のように』、キョーコが蓮をソファに押し倒し、同じようにしてみる。そんな積極的な自分がおかしくて、でも、同じようにして、独占欲の感覚を消したくて・・・彼女も同じ風景を見たのかと思うと、さらにもっと独占欲は強くなっていく。
蓮もキョーコのしたいようにさせていた。なぜ今日はそんなに強く自分を求めてくれるのかは分からなかったけれども、同じだけ体の中に何かの強い感情が溢れているのだというのは理解できて、蓮もキョーコの感情を包み込み続けた。
「蓮、好き・・・」
腕の中のキョーコはどこか必死そうに言った。
蓮にはその表情の意味は分からない。
「うん・・・」
蓮はただできる限り甘えさせたくて、キョーコの額に唇を落とし、何の陰り無くただ必死に自分を求めてくれる目を見つめて、優しくほほえんだ。
2010.12.14
2019.06.22 掲載
本「ADDICTED」書き下ろし分です。