星明りに見守られながら、キョーコが眠りについている。
規則正しい寝息。
穏やかに閉じられた目蓋。
時折寝返りをうつ。
遅く帰った蓮は、眠るキョーコの傍らで一人その髪を撫で続けていた。
まるで先に眠っていたキョーコの夢の中に語りかけるように、 入り込むように優しく。
月明かりが照らすキョーコの頬はふっくらと艶やかで、とても無防備に見えた。
ただいまのキスを一つその頬を撫でながら落とすと、 キョーコがうっすらと目を開けた。
「おかえりなさい」
ふわり、とキョーコは微笑んだ。
いつの事だったか、蓮を天使の笑みを持つと 彼女は形容した。
けれど、今、 極上の天使の笑みをそこに見た。
蓮の頬も、ふっと神々しく緩む。
「ただいま。眠っていていいよ」
「・・・はい・・・」
意識は夢の中なのだろう。
再び蓮がその頬に指先で触れて撫でると、キョーコは気持ち良さそうに目蓋を閉じて再び穏やかな寝息を立て始めた。
――どうか、この星の元では穏やかに眠れますように
目を開いたら、この子はまた「修羅」に出る。
体中を使って、それを潜る。
自分が過去見てきた「修羅」を見るだろう。
自分の中の「修羅」。
外の「修羅」。
――君は過去も十分「修羅」の中で生きてきただろうに
――オレ自身の「修羅」も優しく包み込んでくれたのに
それでもこの子は、それらをスキップでもしながら、 鼻歌でも歌いながら、その意志の強い目でもって、 ヒラリと飛び越え、潜り抜けていくのだろう。
だからせめて、この星の元では穏やかな眠りを。
普段は恐ろしい「黒」が、君のそれを全て飲み込んで包み込んで、 優しくかき消してくれるから・・・。
2008.03.01
素材はタイトルページに頂いているオーロラ写真家中村宏先生のお写真です。
(前サイト開設時に先生より直接頂きサイトでの使用許可を得ております)