「敦賀さん、敦賀さん、聞いてください!コーンは・・・」
彼女は何故か彼女の大切な思い出、「コーン」との事を、とても嬉しそうに、大事そうに話をしてくれる。
「それで、コーンは・・・・」
何度も出てくる、『コーン』の名前と、『コーン』の話。 彼女が大切にする「お守り」を大事そうに眺めながら、まるでホンモノがすぐ傍にいるかのように話す。
「ほ、本当に、本当なんですっ!!!」
「だからね、疑って無いってば」
彼女の中に眠る「思い出」を聞くのが好きだった。
微笑ましいな、と思って、黙って彼女の話を聞いていると、彼女は毎度、我に返るのか、照れ隠しなのか、
ぶぅ、と可愛く頬を膨らませる。
*****
彼女は、「彼」の話を、自分の父親のように、とても楽しそうにする。
「それで、先生は・・・」
目を輝かせ、いかに「彼」を尊敬しているのか、大好きなのかを熱弁する。
「うん、そうだね」
やはり、にこやかにその様子を見守るばかり。
彼女の大切なものは、『なぜか』、オレの大切なもの。
「敦賀さんの存在は、私に、勇気と自信をくれるみたいです」
それが、彼女の中の人間としての好意だとするならば。いつか、
「それで、敦賀さんは・・・・」
と、自分の事のように、誰かに話してくれるだろうか。
その時、こうして無垢に微笑んでいるだろうか?
*****
そして今のこの世界で、彼女だけが「クオン」に笑いかけ、その名をそっと呼んでくれる、優しい現実。
・・・・・無意識であるとしても・・・・。
彼女の中では、「クオン」は生きていて、大きくなり、大きな羽で大空を羽ばたいている。
そう言って、疑わない。
きっと、そこにいて、見てくれていると言う。
いつもそこに居て見守っていて欲しいと言って、「クオン」の居場所を与えてくれている。
それが、どれ程嬉しい事か、きっと分かっていない。
彼女が、「クオン」の生きている証を、そこに与えてくれる。
何もかもが変わり続けているけれど、
今は誰も「クオン」と呼んではくれないけれども・・・君の中で「クオン」は、変わらずに、生きている。
彼女が大切にしているものは、オレも大切にしてきたもの。
これから先、二人の大切なものが増えるといいなと、思う。
そしていつか、
「それで、クオンがね・・・」
と、自分の事のように、嬉しそうに、誰かに話をする日が来るだろうか?
2008.05.09