まったくさ、困るんだよね。
いくら楽屋とはいえ、オレの目も気にせずこうしてらぶモードを振りまかれるとさ・・・。
まぁ、昔からこの二人は何だかんだ自分の気持ちに言い訳をしながらもね、無意識にらぶっぷりは披露してきてくれたけど・・・。もうさぁ、キョーコちゃんが傍にいるだけで蓮の顔が全然違う。普段の仕事振りが全然違う。
「ねぇ、キョーコちゃん」
「なぁに、蓮」
なんでただ名前を呼び合うだけで、この空間はまるで映画でも見るかのように甘ったるい空間になるんだ・・・。
なんでそんな至近距離で甘く見つめあう?
お兄さんはもう、見てられないよね・・・。
お互いに『とにかく好きでしかたない』と、目が声がそう言ってる。名前を呼び合うだけでこうなんだ・・・一体、普段この二人はどんな生活してるっていうんだ・・・。
蓮のあの甘い表情をまともに受けられるのがキョーコちゃんだけなら、きっとあの砂を吐くような甘い台詞を、笑って受け流せるのもきっとキョーコちゃんだけなんだろう。そうして蓮にだけ向けるその優しい笑顔でそれらを受けながら、蓮を翻弄しているのだろうなぁ・・・。
「******」
「なぁに?なんて言ったの?」
蓮が俺を気にしたのか、ただ思いつきか知らないけれど、耳打ちしたのをキョーコちゃんてば台本に夢中でまた聞いていなかったみたい。
きょとんと蓮を見上げた顔が、まるで小動物のように可愛くて、俺がこうして遠くから見ていたってそう思うぐらいなんだから、蓮など多分もう。
誰にもなびかなかったあの「蓮」が、初めて出会ってからたった数ヶ月後にはあっさり落とされたんだぞ・・・。
(まぁお互いこうなるまでには時間を要したけどさ・・・俺は頑張った!!)
キョーコちゃんはそのうち業界でも大化けするんだろうなぁ。意味深にくすくす笑った蓮てばさぁ、キョーコちゃんの頭を一撫でするだけで、キョーコちゃんの問いには答えなかった。まったく、いくらここが楽屋だからってね。俺の存在なんて、気にしていないんじゃないのかなぁ?もしくはお互い素なのかまぁ、蓮は昔からキョーコちゃんの事に関しては、すべて顔に出ていたけれど。
蓮はずっと、俺も含めて誰もその一歩先の一番大事なスペースに入れなかった。
この超多忙なスケジュールと雑多な人間関係の中で、自分だけの時間や空間を作ろうとするのは、仕方の無い事だと思っていたのに・・・。
なのにキョーコちゃんだけは違ったから。自ら電話する、車で送る、家にあげる、あれこれ自分の物はあげる。
付き合っても無いのに、一番そばに置いていた。正直なところ、複雑そうな顔して意外と単純なんじゃないかと思うほどに、キョーコちゃんをストレートに可愛がっていたよねぇ。
だから世間にばれるのも時間の問題なんだろうと思っていたのに、あの曲者の笑顔で、言い寄る女優も記者も跳ね返してしまうところはさすが役者というか。尊敬するよなぁ。
俺の仕事が減って嬉しいと言えば嬉しいけどね。それが素なのか演技なのか、イマイチ俺にはまだわからないんだけど。
だからこうして俺の目を憚らず、らぶモードを振りまくということは。暗に蓮は俺にも気を許してくれているということなのだろうか・・・。
あーあ。仕事じゃなければ俺もさっさとこの場から離れて、お茶でもしたいよねぇ。
まぁ、蓮とキョーコちゃんなら、いいよ。
なんだか知らないけどさ、俺も幸せな気分になるから。
「蓮、分かった、耳貸して。「**********」。合ってる?」
「うん?あぁ・・・。くすくす。そうだね」
――ちゅっ・・・
「蓮っ????」
――・・・・・ざらざらざらっ・・・・・。
はて、俺の「砂」はどこまで補充しておけばいいんだろう?
まぁいいや、俺はいつでも君達の三歩後ろで・・・見守っていてあげるから。
蓮の大事な空間に、キョーコちゃんだけがずっと居られるようにね。
(・・・だけど・・・たまには振り返ってよね・・・・・)
2005.11.24
2020.07.18 改稿