完全に照れているキョーコの頬に蓮は右手を添えた。でも、と、言いながら、蓮はキョーコの唇を探して口づけた。
二人は、ゆっくり、甘く、愛し合うように、恋人よりも恋人らしいキスをした。
蓮が唇を離すと、ふは、と、キョーコが思わず可愛らしい息を漏らした。そして蕩けるような顔で、蓮をちらり、と、見上げた。キョーコの顔は蓮が好きだと言っている。
この顔なら何度も見たことがある。キョーコの体は蓮にぴったりと寄り添っている。離れたくないとでも言うように。
以前キスをした時だって、この顔をしていた。
やはり最初からキョーコは全部嘘をついたのだ。
好きな男がいるというのも、多分・・・。
早く気づけばよかったと、蓮は思った。
もうキョーコの言葉にはだまされない。
「これだけでいい。可愛い君と、君の本当の事が見られたから」
「もう本当に敦賀さんて・・・」
「何?」
「私の決心なんて風のように飛んで行ってしまいそうなキスをするんですから。もう自分に負けそうです」
「上手にできた?じゃあ褒めて?」
舌先をぺろり、と、出して、蓮は笑った。目はにっこりと笑い、嬉しそうに、褒めて欲しいとねだっている。
「もう、する事は大人なのに、本当に子供みたい」
キョーコは蓮の髪に少しだけ触れて、撫でた。
「ああ、もう、やっぱり、責任が取れないような事してしまえばよかったかなあ。一年どころか半年も待つの長い」
「待っていて、ください、ね?」
「分かったよ、お嬢さん」
「途中で忘れて、他の人を愛してしまっても構いません。その時は言ってくだされば。私は全然平気ですから」
「それもまた嘘だ。まだ言うの?」
「言いますよ。だって、佐保だってそう言うじゃないですか。ほかの人の心は誰にも縛れないって。私ではない敦賀さんの心の中など、私には縛れません。恋は心と体の自然な欲求なんですから」
「じゃあ、オレを君の中で放し飼いにしておいて。勝手に君の周りで飛び回っているから」
「・・・・・放し飼い」
「絶対噛まない、リードが無くたって絶対逃げない、何年たってもご主人様の帰りを待ち続ける、渋谷の駅前の忠誠を誓った犬みたいなものとでも思っておいてくれれば」
「敦賀さんはワンコじゃないです・・・」
「でも愛情を注がれないとか、玄関先か庭に放置されてほったらかしとか、お散歩に付き合ってくれないと拗ねるけどね」
にっこり、と、蓮は笑った。
やっぱり、と、キョーコは思う。
「・・・もう」
「今度はオレ指輪を佐保につくるために彫金習うんだけど。ネックレス、お揃いの一緒に作るか買おう。オレのはチョーカーでもいいよ。紐付けられるような。首輪」
キョーコは吹き出して笑った。
「嫌です、そんな敦賀さん」
「ホラ、紐付けてくくっとかないとね。すぐにオレは君の嫌がることばかりするから」
「放し飼い、なんじゃなかったんですか」
「そうだったっけ?」
蓮はにっこり、と、面白そうに笑って、キョーコを体から離した。
「好きだよ。それを忘れないで」
「わかり、ました・・・」
キョーコは蓮の手を取って、
「何度私を忘れられても、会ったらもう一度、好きになってもらえるように・・・私もがんばります」
そう伝えた。
「忘れないよ。放し飼いでいいって」
「ふふ。こんな泣いてひどい顔の時にこんなに好きだと言ってもらえるんだから、信じます」
蓮とキョーコは、ただただ自然に、まるで互いに吸い寄せられるように唇を寄せていた。
好きだと、愛していると、伝えるために。
2019.12.28
おまけ。
ここで蓮が「作る」と言っている物が、途中で書いた予告番外編で蓮が 「この間言っていたやつ」 、です。この話の時系列の季節は冬なので、番外編は次の春、次のホワイトデーでしょうか・・・。普通はそんなに長く撮らないと思いますが、オムニバスドラマ第三段でも撮っていると思って頂ければ、、、(笑)。