いつくしむ 17.5



カイロスの刻(とき)、というタイトルと共に、蓮とハル、数人のその他の男性俳優や女優が出て来て、それぞれが同じ時に、同じ人に会う。その選択を変えると、どんな未来があるのか、それを再現した物語だ、という。

「カイロスってギリシャ神話の神の名前。チャンスはそれが降りてきたらすぐにつかまないと得られないという例えの神様だったり、人の感覚的な一瞬とか、永遠のような、とか、の、体の感じる時間を指したり」

「そうなんですね?」

「本音を言う言わない、やりたい事をやるやらない、決心するしない、家を出る出ない、その選択によってその後の人生の一部を見る事が出来たら、という、幾つかの例、だね。決して、行動したからといって、結果が思う通りか、という事にはならないんだけど」

蓮がそんな話をする間にDVDが始まって、蓮は口を閉じた。蓮とキョーコは隣に座りあって画面に向かっている。

先にハッピーエンドの話があって、それから、分岐点まで戻る。どこでどう選択したら、望まない未来にたどり着いたのかの検証をするような構成だ。

ハルは、思いを伝えた場合と言わない場合の二話だった。うまくいった話を見て、それから、ハルが言わずに号泣しながら心底後悔しているのを見て、キョーコも泣いていた。いったん蓮が画面を止めてキョーコの髪を撫でた。キョーコは目元を手の甲で拭った。

「ハルさん・・・」

「ハルが君に散々思いを伝えるように言ったけど・・・恐らくこの作品の影響が強いと思う。オレたちが撮る時も、まずはうまくいき、その後うまくいかない場合の順で撮っていった。ハルは役にのめり込みすぎて、しばらく撮影終了後もこっちへ心が帰って来られない程だった」

返事の代わりに、ぐす、と、キョーコが鼻をすする。

「この相手をしていた人を、ハルは心底愛していたけれど、でも、オレたちは十八位で、彼女は少し上で、ひと時の恋愛を楽しんだけれど、そのうち別れてしまった。ハルは心底本気だったんだけどね。彼はこの通り、大人になったら、ハタチになったら、少しは認められるのではないかと思っていたんだよね。大人になったら改めて言おうと思っていたけど」

「この方今はもう、確かご結婚されていましたよね」

「うん。しかも年齢はオレたちとそんなに違わなくて、ハルは、年齢じゃ無かった事に気づいたみたいでなおの事ショックでね。全く演じた通りになった。その時全てを言えばよかった、せめて言っていたら後悔がなかった、って。『大人』になる時なんて無いんだって気づいたみたいだよ。それから、ハルはすっかり今の感じ。すぐに伝える。それが果たして良いかどうかは分からないけど」

「あの。ハルさんが言うには、男性に限らずこのお仕事の人たちは、仕事をして、良いなと思ったらすぐに付き合い、すぐに別れて、互いにまた次にいくんだから、私もそうすればいいのに、と、先日こっちのお仕事でお会いした時に言っていました。恋愛は娯楽の一つのように」

「そうなんだ?」

「ええ。敦賀さんも・・・そう、思いますか?なんていうのでしょう、恋愛を楽しむために恋愛をする、みたいな。気軽につまむ、おやつ感覚、というか」

「どうかな、オレは違うから分からないけど」

「私、以外に、共演した方で、やっぱり、そのそういう感じで、口説いてしまうとか」

キョーコは聞きたかった事を口にした。ハルが言う通り、次から次へ花を移動する蝶のように、今、蓮が自分を好きでいてくれるのは、そういう理由からではないのだろうか、と。

「無いね」

「そう?ですか?」

「なんでそんな不思議そうな顔?オレはハルのように見えているの?」

「いえ、相手の女優さん、皆さん敦賀さんをお好きになってしまうと聞くので、それぞれの時、それぞれに楽しんでいらっしゃるのかと。本命か臨時かは分からないですけど、その時々のパートナーとして・・・」

「オレはハルとは違うよ。でも何、臨時のパートナーって。そういうパートナーっていう意味?無いよ」

「そう、ですか・・・」

非常に緊張して言葉を選んで聞いた。蓮から予想とは違う答えが返ってきて、キョーコはしばらくぽかんとした様子で、それから次第に頭の中はぐるぐるして、言葉が続かなくなった。

蓮はちらりとキョーコを見た。そして停止している画面を指さした。

「どうする?オレの話も見る?オレは見なくてもいいけど」

「え?ええ、おねがいします」

キョーコは頭に色々考えすぎて、他に何を考えるでもなく口がそう答えた。

蓮の話は、家の事情でやりたい事をやるか、やらないか、というような家族の話だった。やりたい事を選択した場合、当初は反対されたもののうまくいき、結果家を救う事にもなった。やらないで家のために尽くした時は、家は保たれたものの、自分の中のやりたかった、という思いだけは永遠に付きまとい、思考の牢獄にいるような、やるせない話だった。

蓮の後悔の演技は、思いが滲み出るように寂しく、思い出すたびにする目は薄暗く、後悔は、一生を支配するように見えた。

うまくいくかどうかなどは別にして、望みの人生を送った蓮、誰かの為に尽くさなければならないと信じ込み、自分の思いを遂げなかった蓮。

どちらも、「今が一番良い」と、自分を納得させている。

どちらの人生でも結婚をしている。子供も残している。でも別の女性だし、別の顔の子供。時々思い出すように、夢をかなえた人を見る蓮の顔が寂しく見えた。キョーコは泣きはしなかったものの、蓮の腕のシャツをぎゅ、と、握った。

「ね。好きだよ。愛してる。言えるうちにね。言っておかないと後悔すると、この作品の通り、知っているから」

「・・・・!」

驚いて、目いっぱい目を見開いて蓮を見つめていた。蓮は笑った。

「ごめん、君の気持ちは別の人にあるのにね。もう、言うだけ言ったし、後悔は無いかな。だからもう、諦めないといけないかもね」

キョーコはふるふる、と、顔を左右に振った。胸がいっぱいで喉はつかえて、何も言葉が出てこない。

キョーコは涙を零していた。

「え・・・?」

キョーコは蓮の服の裾を掴んだ。

ぱたぱたと、涙が零れ落ちて、蓮の手の甲の上に落ちた。

蓮は、

「・・・抱き締めて、いい?」

そう言った。キョーコは何も返事をしなかった。それでも蓮はキョーコの背にそっと手を添えて、ほんの少しだけ体の中に入れて、

「ありがとう、オレのために泣いてくれて」

と言った。蓮は、キョーコが映像を見て泣いているのだと勘違いしたようだった。

「それだけでオレは十分。君に恋人としては愛されなくても、オレ自体は愛されてるって分かるよ」

キョーコは首を左右に振るだけだ。

「ね、最後まで、見てみる?」

キョーコは頷く。

蓮が続きを再生した。

蓮の、闇色の目。人を見る時の、悲しみを湛えたような瞳。なぜこんなに悲しみを感じるのだろう。

「いつくしむ」の撮影中にも、英嗣を見て、「敦賀さんの目が悲しそうに見えて」とキョーコが言ったことがある。すると、他の俳優たちは「そうかな?真面目な目って感じがするけど」と言った。人によって見え方も受け止め方も違うのだろうか。なぜ自分は蓮から悲しみを感じるのだろう、と、思った。

隣の蓮をふと見上げる。蓮もキョーコを見て、「どうしたの?」という顔をした。

金色の輝くような髪色。宝石のような瞳。

対照的に位テレビ画面。孤独で、真っ暗で、闇色が似あってしまう顔。

それは多分、あの、妖精が笑えなかった顔を、蓮の悲しい顔を、自分は知ってしまっているからなのかもしれない、と、キョーコは思った。

まるで同じような顔で・・・。

キョーコは胸が痛くて、流れていく画面を、まるで、コーンのように、蓮のように見守り、息が出来なくて苦しい気持ちでいっぱいだった。

そのまま二人とも静かに見守った。最後の方まで見て、蓮はキョーコを見た。泣き止んではいた。蓮はキョーコの目元に指を添えて残った涙をぬぐった。

「これは実際のオレじゃないからね?」

と蓮は穏やかに横で笑った。

キョーコは映像を見ながら、体を起こし、蓮の右手を取って重ねた。蓮が「どうしたの?」と言った。

ただ、行動しない、言わない、という事が、その後の人生がどれだけ異なるか、そんなナレーションが蓮の声で最後に続いている。何かを得るために何かを諦める事は悪い事ではない、それでも、いつかという未来は無い、と、ナレーションは言った。

「ハルさんがこれを下さった理由が少し、分かりました」

キョーコはそう言った。

「そう?この通り、オレが酷い男だって?」

「違いますよっ」

ハルが言いたいのは、「伝えるべきだ」という事なのだろう。一生言わないなんて一生後悔するよ、と。口で言っても伝わらないから、物語で見て、人の走馬灯のような物語の幾つかを見れば、恋心を一生言わない、という選択を諦めるのではないか、と。

「この頃の敦賀さんに、会いたかったです」

「そう?どうして?」

「なぜでしょうね、この目が出来る位、敦賀さんが何かの寂しさを抱えていたのかも、と、思うと」

「さっきも言ったけど、これはオレじゃないって」

「そう、ですよね。でも一かけらも分からなければこんなに人の気持ちをさらう事などできませんから。さすがです、敦賀さん」

「これはオレではないけど、後悔先に立たず、というこの作品の根底に流れる言葉の意味は、理解するよ。後悔の数はたくさんある」

「ええ。私もです」

キョーコは握り続けていた蓮の手から手をどけた。そして、黙り込んだ。

言うべきなのだろうか。

言いたい、言って今なら思いを遂げられる。

キョーコは、ふう、と、重いため息をついた。

「見ると気が重くなるだろ?自分がどう生きるか、考えさせられるから」

蓮は笑い、キョーコの入れた紅茶に口をつけた。

キョーコは無言で頷く。

「そろそろ、オレは帰ろうかな」

「もうですか?」

キョーコがあっけらかんと言うと、蓮は何とも言えない微妙な顔をして笑った。

「君には言わないにしても好きなヤツがいて、これを見て、思いを遂げたいと思っているかもしれない。その時のためにオレがいてはいけないような気がするから」

「いえ、その、あの」

「ね?オレはそろそろ」

「どこへ行くんですか」

「?」

「その顔でどこへ行くんですか?」

キョーコは妙に強い口調で蓮を責めた。

「どこへ?まあ、どこか探せば入れる店もあるだろうし、朝一までそこで過ごすよ」

「寒いです。だめです。ここにいてください」

「いいけど・・・オレは君を好きだというのを忘れないで。ここに一緒にいたら万が一のことがあるかもしれない」

「いいですよ、他の所へ行って誰か適当に相手するよりずっといいと思います」

「最上さん。君をそういう目では見てない。さっきからオレが君をまるで遊び相手かのように言うけれど」

「・・・本当に?」

「敦賀蓮は仕事用のオレだけど、敦賀蓮でない本当のオレは、君を失うと多分生きていけない」

「え?」

「君に全部救ってもらった」

「何も、私は」

「君はオレを救ったなんて一ミリたりとも思わずに、救ってくれた。敦賀蓮ではないオレは、あまりオレとして生きる事が好きではなかったけれど、君を好きになって、愛している間、オレは初めて、敦賀蓮ではないオレを見て欲しいと思った。幸せだったよ」

蓮はキョーコの顔を見て言った。

キョーコはまた言葉が無くなった。

蓮の「好き」という言葉を、どれだけ疑ってきたのか、どれだけ信じられなかったのか。愛しているからこそ、いつか来るだろう別ればかり想像して、そんな一瞬の喜びなどを受け入れる事もできなかったこと。

「本当に私が好きなんですか?さっきもお伺いした通り、次の仕事に移ったら、次の相手の女優さんを口説きますよね?」

「君が他の男を愛するとか、愛される所を想像しただけで敦賀蓮ではないプライベートのオレは一体どうなってしまうのか分からなくて吐き気がする」

キョーコは、再び蓮の手を取って、握った。

無言で首を振って、そして、涙を浮かべた。

「敦賀さん、あと、半年、一年後も、私を好きでいてくださいますか?」

「え?」

キョーコは蓮に寄って、蓮の唇に自らの唇をそっと重ねた。何度も何度も、触れるようにそうして、重ねた。

「ふ、最上さん」

蓮は戸惑いながら、キョーコがする唇をただされるがまま見つめていた。

途中で、蓮の綺麗な顔を見ながら、自分の化粧は涙で濡れて崩れ、きっとひどい顔だろうと、キョーコは思って、思わず離れた。

「こんな顔の人間にこうしてキスされても好きなんですか?」

「は?顔?何の?」

「こんな泣いた不細工な顔を、と」

「どんな顔でも君は君。化粧しているから好きですって人、いる?」

「そうです、けど」

「もっとしてもいいの?」

「は?え?」

「だからそこで戸惑わないでくれる、傷つくから。今君からキスされてオレは君にもっとしていいと許可を得たのかと思ったのに」

蓮は両肩を少し持ち上げて首を横に倒して、全く、というような仕草をした。

「今、佐保として、したいと思ってくれているいるんですよね?」

「佐保なんかじゃない。オレは敦賀蓮でも何でもないただのオレが、京子でも何でもない、ただの最上さんが好きだと言ってる」

「・・・どうして、わたし、なんです・・・」

「好きだよ。愛してる。それ以外に理由なんて無い」

キョーコは既に頭はオーバーヒートを起こし、頭から煙でも出そうな勢いで目を回した。

「でも、君がそれを望んでいないから。毎回、少しずつ我慢するたびに欲求が降り積もってる。重ねた欲求で理性はグラグラするし、その欲求不満の塔はすぐにでも崩壊しそうな位、脆そう」

「嘘ですよね・・・?」

「嘘じゃないよ」

「どうして、どうして私・・・。あの人も、あの人だって、それから、あの人だっているのに」

「仕事だろ?」

「私もその中の一人ですよ?」

「だから、仕事じゃないってさっきから言ってる。敦賀蓮じゃない、ただのオレが君が欲しいと言っていると伝えたら、信じる?」

「・・・・」

キョーコは恐る恐る頷く。

「敦賀さんの言葉は、信じます。だけど、待ってください。あと、一年」

「え~・・・オレの塔がもう崩壊しそう」

「していいですよ。そんな架空の塔なんて壊して、私の事など忘れて、新しい恋愛をしたらいいとおもっ・・・っ・・・」

そう言った所で、蓮はキョーコの唇を手で塞いだ。

「聞きたくない。今、どんなにひどい事を言っているのか、分かってる?オレを振るでもなく、受け入れるでもなく」

「・・・・」

塞がれた手のせいでキョーコは言葉を発することはできない。

「・・・君以外に、愛し愛されたい相手などいないと、敦賀蓮ではないオレが言ってる。君の中に佐保でも京子でもないただの最上キョーコという人物がいるのであれば、そう伝えてくれる?」

蓮はようやくキョーコの唇から手をどけて、ごめん、と、言って、唇をそっと撫でた。

戸惑うキョーコの両手を取った。

「最上キョーコさん、好きです。つきあってください」

キョーコの目は、また涙にあふれていた。

「一年後に」

「・・・わかった」

蓮はキョーコの両手を離した。

「一年後も、私を、好きでいてくださいと言ったら、怒られますか?」

「君は本当に天使のように可愛い顔をして、悪魔のような言葉を囁くね」

「そうですよ。だから他の・・・」

今度は蓮はためらわずにキョーコの唇を自らの唇で塞いだ。

有無を言わさない唇。キョーコの気持ちなど少しも聞かないずるい唇。欲しいものを手に入れたいだけの唇。だけど、それなのに、体がうずくような甘くて優しい唇。ひどく愛おしい、唇。

誰とキスをしたってこんな気持ちにならない。

仕事でも、プライベートでも。

蓮が望み、しさえすれば誰でもそうなってしまう、消えない唇の記憶。

蓮の笑顔、優しさ、唇、体、愛を囁く声、一緒にいた時間・・・。それを一切忘れられず、時を止めた女性など、この世に沢山いるのだろう。

いずれその中の一人になるのだろう。

そうだと分かっているのに、止められない唇。

恋は自分を弱くする。

そう思っているのに。

こんなに、愛おしいと、好きだと、ただ伝えられる唇。キョーコに拒絶をされるのが怖くて仕方ないと言うような、余裕のない、唇。

蓮の舌先がキョーコの中でしたい事をして、逃げるキョーコを追った。

キョーコの唇から、声が、漏れる。音が、漏れる。苦し気に吐き出される息が漏れる。

キョーコの瞳から、また涙が、零れる。

愛したい、愛して欲しい、それだけの涙。

蓮は零れる涙を指ですくってそれも舐めた。

「君のキスはすごくオレを好きでいてくれるように思うのに・・・これも仕事?今後の仕事がうまくいくための奉仕?オレが嫌い?」

「・・・いいえ」

「何人か、君に告白をした人がいたね。君はすぐに断ったと言っていた。ハルのもほかの男のもたまたま聞こえた。オレは断ってくれないんだ?どうして?」

「・・・・一年待って、ください」

「やだ」

「ごめんなさい、と、言えば、いいんですか?」

「・・・・わかった。もう、言わない」

「・・・ちがうんです・・・・いや、いやです」

キョーコはもっと涙を零した。

そして、必死で蓮の唇を探して塞いだ。

今度はキョーコが必死で蓮の唇を割って、舌先を探した。

首に抱きつき、蓮がしたような甘い口づけなんてできない。ただ、探して、絡めて、力づくの。

蓮が、声にならない声を漏らした。

体が、反応しているのも伝わる。

吐き出す息がおかしい程熱い。

「・・・っ・・・もがみ、さん。もう、オレは」

必死でギリギリの声を出して唇を離した蓮に、キョーコは全力で抱きついた。

「今、私が言いたくない言葉があるんです。これを伝えたら、きっと、私は、私でいられなくなってしまう。だから、あと半年だけ、半年だけ、待って、ください。でも、私を、好きで、いてください・・・」

「・・・残酷・・・」

だからもう私の事など忘れて、とは、もう、キョーコは言えなかった。

蓮が、もしかしたら心の底から愛してくれているのかもしれないと、体が受け止めたから。

「君の唇は、オレを好きだと伝えてくれるのに」

「体しか、今は言えない言葉が、あるんです」

「体になら、聞いていい?」

「・・・お任せします」

蓮はしばらくキョーコをじっと見つめていた。

「・・・・・ふう」

蓮は首を振って、しようとした事を諦めた。

「他の、人は」

「お仕事が終わって、全て終わって、半年後に・・・」

答えを聞き終えるよりも先に蓮はキョーコの唇を塞いだ。堰を切ったように、互いに、まるで、噛みつくように。

「好きだよ」

と蓮が何度も言う。互いに短い息が漏れる。

キョーコが蓮の腕の中で脱力した。

蓮は、ちゅ、と、音を立てて離れた。

「最上さん・・・」

「答えは二人の仕事を終えて、また半年後に言います。でも、それまでの間、本当に、好きでいてくださいますか?」

「半年だろうと一年だろうと待つけど・・・相手に言う気になったの?」

「・・・ええ」

「それまでの間のオレはつなぎ?それとも、その相手と上手くいかなくなった時のための保険?」

「いいえ」

「じゃあ」

「一生言いたくなくて、でも、言いたいと思っている相手が誰か、分かりませんか?どうして今まで散々あなたにキスされて拒まなかったか分かりませんか?もしハルさんが英嗣さんの役だったら、プライベートでしようとしたら私は拒みますよ?」

キョーコは怒ったような顔をして、蓮を責めた。

蓮はすこしぽかん、として、それから、笑った。

「そっか、ごめん、気づけなくて」

「敦賀さんとは言っていませんからね?」

「そうだね・・・」

そう言いながら蓮はキョーコの顔に手を添えて、唇に親指で触れた。

「好き。愛してる」

「もう、その目で言われると、ホント困ります」

蓮の宝石のような目を見つめると、もう本当に吸い込まれてしまうような気さえする。

キョーコは蓮がしようとしたキスを止めて、

「社長さんに言われませんでしたか?」

「うん、同意のないキスはするなって」

「そうです。同意し」

キョーコが無駄な抵抗をする前に、蓮はキョーコの唇を塞いだ。










2019.12.28