8. Un sospiro 《溜息》
二人が出会ってから一週間後。
蓮が、「引越しをするから手伝って欲しい」と言って、キョーコに連絡をした。
不破尚の隣のロッジが蓮の寮になっていた。
寮に入らなくてもよかったけれども、ピアノ専用の部屋は防音で空調も完備されているし、ピアノに集中できるから、という理由でこの部屋でいいと言った。
尚の部屋と全く同じ作りの部屋に、キョーコは妙に落ち着かない気分を覚えた。
この学校は、寮に入りたければ誰でも入れる。ただし普通の生徒はキョーコのように相部屋で、二人・三人、四人、と、一緒に生活することになる。キョーコのように二人というのは、その中でもまだ恵まれている状況だった。ラブミー部とはいえ、キョーコも奏江も、コンクール入賞者という理由が大きい。
その中でも蓮が住む一人用のロッジは、学校で十本指に入れなければ住めない。隣は尚の部屋。
尚は高校生の頃入学してすぐに十本指に入った。国内のコンクールで優勝してすぐに留学する予定で、その用意もしていた。が、インタビューを受けた音楽雑誌でその容姿が際立ったのか芸能界にスカウトされ、そのまま歌手としてデビュー後は、部屋には殆ど帰ってこなかった。留学してもしなくても、あまり部屋には帰ってこない。
キョーコは、彼に渡された合鍵を持っている。まだ「返せ」とは言われていない。たまに部屋の電気がついている事がある。キョーコの部屋から尚の一人部屋が見えるから、部屋の光に気付くものの近寄れなかった。尚が呼べば行くけれども。先日の件の後、尚は一度も帰ってきていない。
キョーコは蓮に呼ばれて、部屋の荷物整理の手伝いをしている。もちろん格好はピンクのパーカー。キョーコが、力仕事など出来ないと言うと、沢山の楽譜の山を区分けするのがキョーコの主な仕事だと蓮は言った。
蓮の持ち物はいたって少なく、洋服も殆ど無かった。が、土屋女史から「優勝祝い・引越し祝い」と称して山ほど送られてきていた。それを見越していたから捨ててきたのだろう。敦賀蓮が持ってきた大きいものといえば、ベッドとソファ、楽譜用の背の高い大きなガラス扉のついた棚と、驚くほど立派なピアノだけだった。
「敦賀さんっ・・・このピアノでずっと練習してきたんですか?」
「うん」
蓮は、それが何か?という顔をして、箱の中から大量の楽譜を取り出している。部屋には、持ってきた楽譜用の立派な棚と大きなグランドピアノしか無い。
「このピアノと敦賀さんの車、どっちが高いんです?」
「さぁ?もらい物だから」
「も、もらい物って。ぽんともらえるようなピアノですか?」
どう考えても、学校にある一番高いピアノと同じかそれ以上に見える。先生がキョーコに使用させているピアノも相当な物であるけれども、そのピアノと同レベルかそれ以上のものが目の前にあると思うと、キョーコは音を比べてみたくて触ってみたくて、うずうずする。
「まぁ色々と」
「まさか・・・また「割り切った相手」からの貢物ですか・・・?」
「ぶっ・・・どんな想像したの?まさかいくらオレでも、パトロンなんかから貰った訳じゃないよ。使わないからって貰ったんだ」
「そうなんですか、すみませんっ・・・」
キョーコは恥ずかしさで頬を赤くした。
そしてまた譜面の仕分けに目を落とした。
蓮の譜面は、所々に運指や解釈の書き込みがあるぐらいで、いたって綺麗なものばかりだ。奏江並みの譜読みの早さと記憶力があって、あれだけの技術力があれば、大抵の曲はこなせてしまうのだろう。
「敦賀さん、もしもう見ないのであれば、今度この譜面貸してください。これもこれも・・・図書館だと順番待ちな楽譜ばかりです」
「うん?いいよ。好きに持っていけば?その代わり借りたらオレの前で弾く事。それなら好きに使っていいよ」
「敦賀さんの前で弾くって・・・もしかして「流音ちゃん」、触っていいんですか?」
「るねちゃん?」
「あ、このピアノの名前です。流れる音で流音ちゃんです。この間敦賀さんが弾いている姿見たとき、流れるような音で、感動したからです。そのままです」
「おや、それはどうも。でも一台一台ピアノに名前、付けているの?」
不思議そうな眼差しで見た蓮は、「まぁいいけどね、好きに呼んで」と言って、苦笑いを浮かべた。
「ピアノも生き物と一緒なんです。名前を付けてあげれば可愛いがるでしょう?その方が一緒に弾いている感じがして、仲良しになる気がしていいと思うんです」
「ははっ・・・なるほどね。じゃあ、先生のピアノにはなんて名前つけてるの」
「えっとコ・・・」
キョーコは、うっかり口にしてしまうところだった。まさか「コーン」と名づけているなどと口には出来ない。大事なお守りと同じ名前をつければ、本番でもきっと練習どおり「弾ける、できる」と暗示にかかる気がしてその名前をつけた。コーンも頑張っているからと。
先生も弾いてもらった方がピアノのためにいいと言って、空いていればいつでも触らせてもらえる。キョーコの部屋にピアノは無いから、今はいつも「コーン」と一緒・・・。
尚のピアノも、両親共に音楽家であるから、彼が小さい時に貰ったピアノも、当然の事ながら素晴らしいピアノだった。ちなみに尚のピアノは「ショーちゃん」。キョーコはそのまま名付けた。大好きだから、可愛がるにしてもそのままでいいと思って、小さい時に初めて名前をつけたピアノ。小さい時からずっと二人で取り合うように弾いていたピアノ。彼の元に預けられ、する事も無かったキョーコは、彼もピアノも大好きで、尚を真似するように、ピアノの前に座って日がな練習するのが最大の幸せだった。毎日「ショーちゃん」と話しをするように、語るようにしてピアノを弾いてきた。尚が京都を出て、東京の附属高校を受けると言ったから、キョーコも当然のごとく受けた。特待生枠が取れなければ、働いてでも入るつもりでいた。幸いにして二人とも特待生枠で入学し、特待生について回る影の条件であるコンクールも、入賞した。ずっと「ショーちゃん」と名づけたピアノと、尚とキョーコは共に育ってきた。が、最近彼のピアノを弾いていない。
「なに?コだけ?」
「内緒!私が敦賀さんと同じレベルかそれ以上になったら教えてあげます。それぐらい先生のピアノは大事なピアノです。このピアノと同じぐらい貴重で、とっても良い音がするんです」
キョーコがコーンに「キョーコ」だと告げる日と、ピアノの名前を蓮に告げる日は同時に来るだろう。もしかしたら、一生来ないかもしれない。
そう言うと蓮は、やれやれ、という顔をして、「一生名前、聞けなさそうだね。残念だよ」、と言いたげな顔で見下ろしていた。
「つ、敦賀さんなんてっ。あっという間です!先生はすごいんですから。私は先生を目指しているんです」
「はいはい、どうぞ。追い抜かれるの、楽しみにしてる」
「最終的に先生を目指す前に敦賀さんにも師事させてもらうんですからっ。聴いて覚えて抜いちゃいますよっ」
「その「一応」とはいえさ、師に向かって・・・本当に失礼だよね、君」
「む・・・・」
蓮はくすり、と笑って、一つ楽譜を取上げて「これなんてどう?」と言ってキョーコに差し出した。
「今度会うときまでにやってきて。最初の宿題」
「今度っていつですか?」
「またオレが呼ぶ時まで。明日かもしれないし、一ヵ月後かもしれない」
「適当すぎです」
「必死になるだろ?出来なかったら・・・そうだな、うん、君の仕事先、教えて」
「来たいならお教えしますけど?」
「くすくす・・・なんだ、来て欲しくないのかと思っていたから。罰ゲームにならないんじゃ交換条件にならないな」
「だって・・・土屋さんに聞けばお店なんてすぐ分かるでしょう?お店で弾くのを聞かれたところで、どうせ私の実力なんてこの宿題こなせばすぐにばれてしまいますし」
「まぁそうだね。でも土屋さんは君の事気に入っているから。簡単に教えてはくれないだろうね。そうだ、服。一箱、君宛に届いていたよ。この間お礼しに土屋さんに会いに行ったけど、テレビの報道を見たらしい。泣かせたでしょって怒られた。だから君へプレゼントだって」
蓮はその時の事を思い出したのか、ゴメンね、と、すまなそうにした。
そんな蓮を見て、キョーコはやはり「コーンだ」と思った。昔キョーコが泣くと、コーンは自分が悪い訳では無いのに困ったようなすまなそうな顔をしていた。
そんなところも変わってないと思い、少し嬉しかった。
「すみません・・・。土屋さんにお礼のお電話、あとでしておきます」
「そういえばあの彼とは、うまくいった?」
「いえ。あれ以降会っていないので」
「そう・・・・」
部屋に沈黙が流れた。
蓮は、キョーコの髪をわしゃわしゃ、とその大きな手で掻き乱して、元気出して、とまた言った。
キョーコは、やっぱりコーンだと思って、涙が浮かんで、それを隠すようにピアノの前の椅子に腰掛けて、蓋を開いた。
「あの・・・流音ちゃん・・・弾いていいですか?」
「ん?いいよ。調律済んだ所だし。何弾いてくれるの?」
「この間弾いてくれた「愛の夢」。私も覚えてきました・・・」
蓮のように優しい音が出せるかなどうかなどは分からない。自分が好きなように弾くだけ。
キョーコ指を鍵盤に置くと、調律が済んだ綺麗な音が響いた。相当引き込んでいるのが分かる、どこもかしこも平等に軽いタッチの鍵盤。馴染むように、誘われるようにして、弾き出した。
弾き出して・・・小さな頃ショータローとピアノを弾くのが楽しくて仕方が無かった思い出が、あの日の冷たいショータローが、そしてコーンと敦賀蓮はいつでも慰めてくれると・・・思い出すに従い、涙を止める為に隠す為に弾き出したのに、弾きながら少しだけ涙が落ちた。
「この間の事・・・思い出した?」
蓮はキョーコの音がぶれた事に気付き、またわしゃわしゃ、と上から髪を掻き乱して弾くのを止めさせた。
「ごめんなさい、まだ・・・ダメみたいです」
「どうした。両思い、なんだろう?」
椅子の端に一緒に腰掛けた蓮は、また正面からキョーコを抱き寄せて抱え、よしよし、と背中を撫でて慰めた。キョーコは、子供を扱うような抱え方をされた事が初めてで、コーンだと分かっているからなのか、ある意味で男性に抱きしめられているのに、妙に安心した。
しばらくその温かい腕の中で撫で慰められるがまま、沈黙が続いた。
キョーコがそっと身体を離して、ありがとうございます、と告げると、蓮はすっと身体を引いて、立ち上がった。
上から見下ろされている視線に気づき、キョーコが見上げると、蓮はふっと笑った。
「オレは君を「気に入った」らしいよ」
「え?」
「でも君と割り切って遊びたいとかそう言う事じゃないから安心して。だからそれ以上の「慰め」は出来ないよ。君には両思いの彼がいるんだから」
――コーンだから。泣けば誰にでも優しいのね。
身体を引かれた、というのがそれを物語っていた。キョーコを女として見ている訳ではない。
「今の良かった。どうして君、もっとコンクール出ない?」
「ラブミー部はコンクール禁止なんです。音に愛が足りないのが分かっているからだと思います」
「そう。教え甲斐がありそうだ」
楽しそうに意味深にくすくす笑った蓮は、今度はオレが弾く、と言った。
「何弾いてくれるんです?」
「何がいい?」
「じゃあ・・・「溜息」がいいです。弾けますか?」
「あぁ・・・うん・・・オッケー。でもさすがに覚えてない。楽譜仕分けた中から取ってくれる?「愛の夢」は今度買っておくよ。図書館みたいに返さなくて済むし、いつでも見られるようにしておいてあげるから。ここにある楽譜には好きな事書き込んでいいよ。コンサートの曲目で無い限り、使うの、年に一回開くか開かないかだから」
キョーコが楽譜を探し出して渡した。
最後まで見ながらしばらく集中した蓮は、思い出したよ、と言って弾き出した。
キョーコにとって、相変らずの優しい音。難しい曲をさらりと優しい音に変えてしまう辺り、蓮の、コーンの一面が出ている気がするような気がする。
ピアノを弾いている蓮の表情はやはりとても穏やかだった。
そしてキョーコは、この間は見られなかった蓮の大きな手の動きに見惚れた。徐々に大きくなっていく主旋律と甘い音の並び。ゆっくりゆっくりと弾いていく蓮。なぜか溜息というタイトルよりも吐息・・・に近い、優しく甘く、官能的な音に聞こえる。恋をしたくなるような、寄り添った甘い恋人達が目に浮かぶ。
キョーコの心はどきり、と、強く収縮した。
今の自分には出せない音。きっとこれが、自分に足りない「何か」なのだと思った。
恋をして、愛して・・・溜息のような吐息のような官能的な関係など知らない。愛しくて仕方が無く、吐息を分け合うような事など、無い。
尚とそんな関係になったら分かるのだろうか?他のピアニストたちも、自分と同じぐらいの歳の人は皆そうしているのだろうか・・・?
五分弱・・・キョーコは譜面を捲るのが精一杯だった。そして蓮の弾く音に深く嵌らされていた事に気付いた。
終わって、「どうだった?」と蓮に声をかけられるまで、キョーコは蓮の手を凝視していたようだった。
「くすくす・・・どうした?」
「あの・・・敦賀さん、恋人なんて作らないって・・・・割り切ってきたのに・・・どうしてそんな甘い音が・・・出るんです?それはその「キョーコちゃん」を思った演奏なんですか・・・?」
「別に誰もイメージもしてないけど・・・何となく甘ったるいイメージだから。気に入ってくれた?」
「はい・・・ありがとうございました」
「君も・・・甘い曲が好きだね。恋、したいんじゃないの?どうする?オレと割り切る?」
「は?」
「遊びたい訳じゃないし、寂しい訳ではないけれどね。オレは君を気に入っているからね。彼がいようとどうしようと関係ない。君が割り切れるなら、だけど」
「な、何を・・・言っているんです?」
「だから・・・恋人役、深く教えてあげようか?ってこと。どうせその様子じゃ深く・・・付き合っていたわけじゃないんだろ?」
「感情が無くてもそういうのを知ったら・・・今のように弾けるんですか?」
「さぁ・・・何事も経験だろ?そう思ったり思わなかったりする事もまた経験してみなきゃ分からないし・・・オレの弾くのがそういう風に聞こえるなら、意味があるんじゃないの?」
「・・・割り切るって、難しい事ですね。きっと私にはできません。敦賀さんに本気になってしまうのが目に見えます。私、両思いで・・・将来結婚の約束もしています。それでも・・・不安で寂しいんです。なんでこんなに孤独なんでしょう?いつも一緒にいて欲しいとか、つきあってなければ恋人じゃない、とかそんな事ではないのに・・・。誤解だとはいえ、「約束」が無くなったと一瞬思っただけで、何もかも無くなってしまったような気がして・・・今の弱い自分と寂しい状況で、「恋人のように」優しくされて「割り切れる」なんて、到底思えないです」
――そう思うのは・・・一番辛い時に傍にいてくれたのが、たまたまた敦賀さんだったから?一緒に寄り添って寝てくれて・・・引き寄せられた時にイヤじゃなかったから?コーンだから私はどうしても安心してしまうの?それとも土屋さんが言うように、私は「落ちた」の?
「おや、君もオレを「気に入って」くれたんだ?」
「・・・・多分。嫌いじゃ、ないです。ピアノを弾く敦賀さんの音はすごく優しいです。・・・・言ったじゃないですか・・・音は嘘をつかないって・・・」
「優しいかな?買被り過ぎ。オレは冷たい、男だよ」
「そうしておきたいんですか?じゃないと・・・踏み込まれるから?」
「・・・・・・・」
じっと驚いたようにキョーコを見た蓮は、ふっと笑って、そうかもね、と口にした。
「あまり・・・踏み込まれるのは好きじゃないかもね。他人に感情を動かされるのは得意じゃない。君も分かるだろ?少なからず自分の精神面が音に影響するって。それにしても・・・君は本当に面白い。オレに堂々と嫌いだと言ったのに・・・オレは「気に入った」んだから。無意識の内に十分踏み込まれたらしい。ま、気が向いたら「割り切り」においで。それも一緒に「教えて」あげるよ・・・くすくす」
「む・・・。もう、せっかく御礼をしようと思ったのに!!敦賀さん、この間のCD、まだ売っていないのをくれたんですね。ありがとうございました。お礼に・・・私のお気に入り、あげます。ベスト版にしておきました。あ、サイン入れましょうか?」
「くすくす・・・将来貴重かも。いいよ、入れておいてよ」
「もう、またバカにしてっ!ラブミー部を卒業してコンクール出られるようになったあかつきには優勝して、あっという間に有名人なんですからっ」
――その時に、「キョーコ」として、敦賀さんに会いに行きたい。
キョーコはCDの歌詞カードに「あなたのキョーコより」と書いて渡した。
「ピアノのCDじゃないね」
「はい。でもクラッシックとのコラボで面白いし何より声が可愛いんです。それに・・・中に「Cinderella」って曲が入っているんです!私、シンデレラが大好きなんです。それから「Piano In The Dark」なんかも素敵です。八十八個の鍵盤の向こうに何かがあるって」
「オレが探しているキョーコちゃんもシンデレラが大好きとか言ってたな・・・女の子はみんな好きなんだね」
――あなたが探しているキョーコちゃんが私なら・・・私はラブミー部のお仕事として、かつての「キョーコちゃん」を演じてあげる。
シンデレラが大好きで可愛くにっこり。純粋無垢な「キョーコちゃん」。蓮が「キョーコちゃん」と呼んだら、自分は「蓮」と呼び返し、それになる。それになればきっと蓮は「百点」をくれるはずだ、とキョーコは思った。そんな演技で良いのなら、いくらでもできる。蓮は恋人役が欲しい。キョーコはラブミー部を卒業したい。利害関係は一致している。
もし蓮の言う、割り切った関係になったとして、いつかキョーコが「キョーコちゃん」として現われたら、蓮はどうするのだろうか。いきなりその存在だけで「好き」だと言い出すのだろうか。今、自分と「割り切る」とはっきり言っているのに。だから、キョーコは、「割り切れない」。
キョーコは、ショータローが好きだ。
キョーコは、コーンが好きだ。
――敦賀さんは・・・・????
既に嫌いではなくなってしまっていた。好きなのか、安心しているのか、ピアノに対する尊敬の念が強いだけなのか、それともやはり蓮に落ちたのか。
尚がいなくて寂しいせいで、その思い出の「コーン」を垣間見せる優しさにすがって・・・恋の隙間を埋めたいだけだったら・・・・・・・。
まだ、キョーコは自分の気持ちがよく分からない。CDはキョーコの蓮へのちょっとした布石。「キョーコちゃん」との共通点ならこれから沢山教えてあげようと思った。蓮がどういう風にキョーコを気に入ったのか、キョーコには分からない。それでも割り切れる程度には自分を「気に入った」と言った。キョーコが蓮の記憶に残る「キョーコちゃん」にそっくりで、でも「別人」だったら、蓮はどう思うのだろう。
キョーコの中に「キョーコちゃん」を垣間見て、初めて自分に「本気」になるだろうか。それとも似すぎていて逆に拒絶されるだろうか。
『あなたのキョーコより、あなたへ』
――いつか約束が果たせたら、絶対に「あなたのキョーコ」として会いにいくから。
今は蓮が「キョーコ」と「キョーコちゃん」の間で彷徨う姿を見てみたいと思った。
2006.03.04