Daydream34-3アンコール(蓮&キョーコ)

【蓮&キョーコ】

キョーコのスペイン公演を終えたあと、蓮がキョーコを連れてスペインのひまわりの丘に二人は立った。

360度見渡す限り、ひまわり。

強い日差しに、蓮とキョーコは目を細めた。

キョーコが蓮を見上げる。

蓮の白いシャツと、日に透けたひまわり色の髪は、風に舞って、ひまわりの丘の色に溶けたように見えた。

キョーコの視線に気づいた蓮も、キョーコを見て微笑む。

キョーコの薄茶色の髪と真っ白なワンピースの裾が風に舞う。太陽のような最大級の嬉しそうな笑顔を向けたキョーコに、蓮は、確かにひまわりみたいだ、と思って微笑んだ。

見渡す限り、あたり一面、ひまわりしかない。

誰もいないひまわりの丘に、キョーコはまるで子供のように駆け出して、嬉しそうにひまわりの中に隠れた。

しばらくひまわりの中を歩いて、そして目を輝かせて蓮のそばまで走って戻る。

蓮は勢いよく走って戻ってきたキョーコの体を抱きとめて、微笑む。

「ね、全部ひまわり。すごいです!」

「全部同じ方向を向いているね」

「素敵ですね!」

ただただその姿を眺めて、そして少しの散歩。

とても暑いから、出来る限り。

しばらく歩いたあと、蓮は手に持っていた水を口にした。

キョーコは、歩みを止めて、遠くをただ眺めている蓮に、ずっと言いたかった事を言おうと思った。

でも少しだけ恥ずかしくて、キョーコは蓮の背中に回り、そして、頭を背中につけて、顔を見せないように、隠れるようにして、言った。

「あの・・・。昔・・・コーンとお別れした時にした約束・・・ひまわりを、一本、取って、約束してくれました。それがどんなに私を支えてくれたか・・・。今、もう一度、コーンに、ありがとうって言いたくて・・・」

「うん・・・」

蓮はキョーコの両手を取る。

キョーコは蓮を後ろから抱きしめる。

蓮の背中から、たくさんのひまわりをしばらく見つめる。

どこからともなく鳥がやってきて、頭上を通り過ぎ、どこかへ飛んでいく。

強く羽ばたく羽の音だけが、聞こえた。

「こんなに広い地球の中で、ここにはオレたち以外誰もいなくて、ひまわりしかなくて・・・鳥の羽の音まで聞こえるね」

「はい」

「・・・・・しばらく世界に出てみてどう?キツイ?」

「・・・いえ・・・。五十年以上プロとして弾いた先生方でさえ、もっとうまく弾けたはずだって言われるのに・・・かなうはずもありません。・・・でも、今の私にしか出せない音もあって・・・だからどんな時も、これで大丈夫、皆同じって思います。これからもっと練習と経験を積み重ねていくだけです。それに・・・いつも蓮が甘えさせてくれるから、沢山の練習も、時には世界の厳しい目も、全部私のためって思えるから全然平気です・・・。諦めずに努力すれば、きっといつか夢は叶えられるって思ってここまできました・・・これからも、きっと大丈夫です・・・。いつも、ひまわりの約束のおかげです」

「うん・・・そうだね・・・」

蓮はひまわりに手を伸ばし、見つめる。

「・・・花も、音も、その時だけで絶対に消えてしまう。たった一度の音。二度と出せない音。だから美しいと思う時と、とても儚いと思う時がある」

蓮は咲いているひまわりをとる事はしなかった。

でも、背中で甘える『ひまわり』を正面に抱き寄せて、静かに口付けた。

「オレも、キョーコちゃんがしてくれた約束があったから、今日ここにいる」

キョーコは頷く。

「こんなに沢山ひまわりがあるから・・・約束したい」

キョーコが蓮を見上げる。

「オレは君を裏切らないと昔約束したね。だから、いつでも幸せにしてあげたくて・・・でも、互いに世界を飛び回っている間、いつも一人になる。やっぱり寂しい思いをさせているかもしれないと思うときがある」

「・・・私はいつも、とても、幸せです」

「・・・これからも・・・もしかしたら沢山の寂しい思いを・・・させるかもしれない。だけど・・・ずっと、一生そばにいたい。そばにいて欲しい。だから君と結婚したい。家族になりたい」

キョーコは目を丸くする。

キョーコは言葉が出ずに、でも、腕の中で数度小さく頷き、そして

「はい」

と言った。

「・・・前に・・・一度言った事があるし、紙も置いてある。でも、もう一度、きちんと改めて言いたかった」

キョーコは既に、泣いていた。蓮が抱きとめる。

零れ落ちる涙は、抱きしめた蓮のシャツに、移り、ついた。

「オレ達は全てが消えてしまう世界に住んでいるから・・・せめて、たった一つだけでも、絶対的に確かなものを、手にしてみたいと思うときが、あって・・・でも・・・絶対なんて絶対無いんだけどって・・・」

キョーコは蓮の腕の中で、一度頷く。

「絶対に変わらないものを得たいなんて、無いものねだりなんだって子供の頃からずっと考えてた。でもキョーコちゃんは・・・オレにいつも、とても大事な、絶対の約束をくれる。そしてそれを必ず守ってくれる・・・それがとても嬉しくて・・・。・・・絶対に変わらないもの、やっと一つだけ、答えを見つけたんだ。オレの心の中にね・・・」

蓮は、何を見つけたのかは言葉にしなかった。

キョーコの髪に手を入れて、すく。

そして蓮は、一度キョーコを強く抱きしめて、離すと、「いつも本当にありがとう」、と言いながら、とても綺麗な笑みをキョーコにむけた。

キョーコは何度かうなずくだけで、声が出なかった。

「あともう一つ、ひまわりに約束したい事があって・・・・どんなに離れていても、どんな時でも、いつも音がオレたちを繋いでくれていたから・・・音楽の神様に誓って、どんな時でも、どんなに離れていても、出来る限りの最高の音を出し続けようって・・・お互いにね」

「はい・・・。出来る限りの音を、二人で一緒に・・・」

蓮とキョーコの口付けは、ひまわりが隠した。

新たなひまわりの約束もきっと守られるのだろう。

互いの腕の中で、蓮とキョーコは、変わらない、絶対的なものを、肌で感じ取った。

「君の出すやさしい音は、神様からの贈り物なんだ」

と蓮は抱きしめるキョーコに言った。

だからキョーコも、

「コーンの出すやさしい音も、神様からの贈り物です」

と答えた。

二人は微笑み、そして、手を繋いで、歩きだした。

風がひまわりの間を通り抜けて、ひまわり達の出す音が、愛しい二人の神の子を、祝福した。


【FIN】







2014.12月 本用書き下ろし 特別公開


少し直しました。誤字脱字多くてごめんね。

楽しんで頂ければ幸いです。

(12.25まで本文掲載記念&キョーコさんお誕生日祝いに)